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「文房具」と「文具」の違いは?

文具, 文房具

普段、何気なく使っている「文房具」と「文具」という言葉。この2つの語源を、皆さんは知っているでしょうか?「文具は、文房具を省略した言葉でしょ?」と、考えている人もいるかもしれませんが、実は言葉の意味が微妙に違います。

文房具の由来は?

まずは、文房具の語源から紹介します。文房具という言葉は中国が発祥で、南北朝時代(5~6世紀頃)に誕生したと言われてます。中国の文人が、読書や書き物をするための部屋(=書斎)のことを「文房」と呼んでいました。ここから「文房に置いておく道具」という意味を込めて、文房具という言葉が生まれました。

この頃は、筆、硯(すずり)、墨、紙、筆洗(ひっせん)、筆筒(ひっとう)、筆架、水滴、墨台、文鎮(ぶんちん)、印材、印泥(いんでい)、刀子(とうす)、錐(きり)のほかに、文房に置いていた琴や屏風、書画、陶器などの美術品も含めて、文房具と呼んでいました。宋の時代以降は、特に硯、筆、墨、紙の四品のことを「文房四宝」や「四友(しゆう)」と呼び、それぞれの名品は、文人たちに大切に扱われていました。

余談ですが、当時の文房具は実用品よりも鑑賞用としての意味合いが高く、四種類の文房具のなかでも、最も重宝されていたのは硯でした。硯は、半永久的に使っても消えてなくなることがなく、骨董品としての価値が高かったからと言われています。次に、墨、紙、筆の順に価値があると言われ、筆は鑑賞用よりも実用性が高かったことに加えて、新しいものでないと使えなかったことから、骨董としての価値は乏しく、観賞用として愛でる対象にはならなかったと言われています。

日本に文房具が広まったのは、610年に高句麗の僧・曇徴(どんちょう)が、紙や墨をつくることを伝えたことがはじまりと言われています。正倉院宝物にも、文房具類の伝世品が数多く分納されています。時代を経るにつれて装飾性が加えられ、名匠による逸品も多く出回りました。中国と同様、この頃の文房具は、どちらかというと観賞用としての意味合いが強かったのですが、明治時代以降に西洋文化が伝えられてからは、欧米の紙類や筆記用具、事務用品など、実用品としての文房具が一般的に普及されるようになりました。また、この頃から、書斎で用いられる道具として認識されていたものが、子ども用や事務用、デザイン用など、幅広い範囲で用いられる道具として認識されるようになりました。

文具の由来は?

一方、文具の語源は中国が発祥とされており、文房具よりも後の時代に誕生しました。明(14~17世紀)の時代に書かれた書物「長物志」に、書斎における必需品の項目として書かれていたのが、「文具」のはじまりと言われています。

文房具が、硯、筆、墨、紙の四点を指す言葉であるとするなら、文具は、さらに広範囲の道具を指す言葉になります。現代の道具に置き換えると、ハサミやホッチキス、のり、カッターなどが挙げられます。

現代の「文房具」と「文具」とは

文具と文房具の言葉の由来から、それぞれの意味の違いをまとめると、現代では

・文具 :学習や事務作業に使う道具の総称

・文房具:筆記具を中心に、書くために必要な道具

と、分けられるのではないかと思います。文具の枠のなかに、文房具という一つのまとまりがあるというイメージが分かりすいのではないでしょうか。言葉の意味合いは、厳密に言うと変わってきますが、現代においては、文具と文房具は混ぜて使ってもよいのかなと思います。仮に、文房具が、硯、筆、墨、紙の四点のみを指す言葉だと言われてしまうと、文房具という表現を使えるのは、書道をやっている人だけになってしまいますよね。

言葉は時代の変化によって、その意味は変わります「文房具」という言葉も、昔は空間を華やかに見せる愛玩品としての意味も含まれていたように、時代によって、言葉の意味のバリエーションは変化していると捉えた方が、面白いのかなと考えます。近年では、手書きで書いた文章をデータ変換してくれるデジタルペンや、ビジネス用の書類を手軽にデータ化できるコンパクトサイズのスキャナといったデジタル文具も続々登場しています。

これから「文房具」、「文具」という言葉の意味は、アナログだけではなく、デジタルの領域まで広がるのがスダンダートだと考えた方がよいかもしれないですね。