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使わなくなったデザイン道具

ツィーザー、ディバイダー、ロットリング、烏口、ペーパーセメント、ソルベント、バーニッシャー、トリミングスケール…ってどんな道具だかわかりますか。今から30年前のグラフィックデザインの現場では、これらの道具がなければ仕事ができませんでした。

グラフィックデザイン今昔物語

あなたがもし「デザイナー」だとして…ツィーザー、ディバイダー、ロットリング、烏口、ペーパーセメント、ソルベント、バーニッシャー、トリミングスケール…ってどんな道具だかわかりますか。今から30年前のグラフィックデザインの現場では、これらの道具がなければ仕事ができませんでした。

懐かしくなったので、全部書いてみることにします。上記の道具以外に、30年前のデザイン現場に必要な道具は、カッティングマット、三角定規、溝引き用直線定規、ガラス棒、金差し、コンパス、シャープペンシル、色鉛筆、カラーマーカー、ルーペ、ライトテーブル、トレーシングペーパー、レイアウトペーパー、版下台紙、写植見本帳、写植スケール、CMYK色見本帳、特色カラーチップ(DICや日本の伝統色など)、セロテープ、メンディングテーブ、インスタントレタリング各種。

…と、これだけの道具(文具)を揃えなければ、デザイン制作ができなかったのです。そして現在、グラフィックデザイナーは、これらの道具を使わなくても(あるいは知らなくても)デザイン制作で成果物を納品することが可能です。なぜか…それはこれらの道具は全てコンピュータに置き換わったからなのです。

版下作業として写植文字の文字間隔を詰めているところ。右上の道具がツィーザー、左下がバーニッシャー

 

グラフィックデザインの工程が劇的に変化した

その置き換わった道具は、パソコンのソフトウェア。もっと正確に言えばAdobe IllustratorやAdobe Photoshopというソフトです。2020年の現在、これらのソフトを使わないでデザインを行なっているデザイナーは皆無ではないでしょうか。

Adobe Illustratorのツールボックスの変遷。徐々に機能が増えていくことでツールの種類は増えているが、基本はバージョン1(Illustrator88)がベースになっている。

 

グラフィックデザインとは、一般的に印刷物を作成する工程です。例えばポスターやチラシ、さまざまな冊子、ポスカードから名刺まで「印刷」という最終工程を経て成果物になります。その印刷工程の前段階として「製版」という、印刷用のフィルムを作る工程があり、製版を行うために「版下」という紙に文字や図形を書き込んだり、貼り付けたものを用意しなくてはなりません。現在はパソコンとソフト(主にIllustrator)を使うことで、版下は存在しなくなり、時として製版の段階までもPhotoshopを使えば完了してしまうのです。

特にデザイナーにとって制作時間のかかる「版下作成」は、Illustratorの登場によって多くのデザイン道具が机の上から消え、代わりにパソコンとカラーモニターが設置されるようになったのです。

何がどう変わったのか…。それを知るにはコンピュータを使わなかったアナログ工程でのグラフィックデザイン作業(版下作成)を簡単に説明しましょう。版下は、写植(写真植字)と呼ばれる印画紙に印刷された、文字をデザイナーが指定して、受け取ります。それにペーパーセメント(あるいはスプレーのり)というゴム糊を塗布して、三角定規とカッターナイフを使って正確に切り取り、ツィーザー(ピンセット)を使って台紙に貼り付けます。写植の位置を変更するには、ソルベントというシンナーを使用します。

台紙に写植をペーパーセメントで貼り付けた版下

 

罫線や図形が必要な場合は、ロットリングペンと定規を使って直接書き込みます。特殊な文字が必要な場合は、インスタントレタリングを、バーニッシャーを使って転写します。写真はポジフィルムを別原稿で入稿しますので、トリミングスケールを使って「アタリ」を書き込みます。さらに製版で色を指定するために、トレーシングペーパーをかけて、その上にCMYKという各インクのパーセントを指定します。製版技術者に理解してもらいやすいように、色鉛筆やマーカーでざっと色を塗ることもあります。

どうですか?思い出すだけで「めんどくさい」工程ですよね。だけども、手間がかかる分だけ「ものつくり」をしているという実感があり、こうした作業工程を思い出すだけで、楽しい気持ちになります。

ちなみに、昔のデザイン道具は現在も販売されており、さすがに版下制作にはあまり使用されていないようですが、手芸やペーパークラフト、プラモデル、鉄道模型などの世界では現役の道具として活躍されているようです。こちらも機会があれば、取り上げてまいりますので、ご期待ください。

最後に、今回の記事で使用した写真は、120年の歴史を持つレタリング・フォント制作会社「日本リテラル株式会社」様のTwitter動画より拝借しました。