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未来は、パンにはさまれてやってきた。 ─ サンドイッチで読み解くカルチャー変遷

私にとってサンドイッチと言えば「お母さんが作ってくれたお弁当」。そのぐらいの理解だったのです。

書店員だった私と、一冊の本の出会い(2012年)

2012年、私はある書店に勤めていました。
その棚でふと目に留まった一冊の本――『サンドイッチの発想と組み立て』。
それは、当時の日本の書籍市場のなかでかなり挑戦的なテーマだったと記憶しています。

レシピではない。
「パンの構造を理解せよ」「具材との比率を設計せよ」「文化背景まで見渡せ」。
この本は、まさに“プロのための構成論”であり、私が知っていたサンドイッチの概念を根底から覆しました。

 

あのとき私は、はじめてサンドイッチに「美学」があることを知ったのです。

POPEYE809号とサンドイッチの「再定義」(2014年)

そして2014年、『POPEYE』809号がサンドイッチを特集。
これは私にとって、再び衝撃的な出来事でした。

この号ではサンドイッチが、ただの食べ物ではなく、カルチャーの象徴として扱われていたのです。

「サンドイッチと恋」
「サンドイッチと映画」
「サンドイッチとアメリカ」

そんなライフスタイルの一部として語られるサンドイッチ。
さらに嬉しかったのは、私の故郷・愛知県の名店「コンパル」がその誌面(85ページ)に登場していたこと。

コンパルっぽく

エビフライと千切りキャベツ、甘めのソースが絶妙に調和するコンパルのサンドは、
日本のサンドイッチ文化が独自の進化を遂げてきた証そのものでした。

断面から始まったカルチャーの波──2010年代後半のサンドイッチブーム

やがて、サンドイッチは“ブーム”の様相を呈してきます。

そのきっかけとなったのが、フルーツサンド文化の台頭です。
SNSのタイムラインに現れた、カラフルな断面、瑞々しい果実、生クリームの白い海――
これはもう“料理”ではなく“作品”でした。

特に八百屋や果物専門店が手がけるフルーツサンドは、
季節の果物を使い、日本人ならではの“旬”を表現した芸術でもありました。

かつて「構造」で感動し、
「文化性」に憧れ、
「視覚」でときめいた。

サンドイッチは、単なる軽食ではなく、時代とともに変化する表現媒体となったのです。

あの本が語っていたことの「続き」を、私たちは今、食べている

思えば2012年のあの日、『サンドイッチの発想と組み立て』に出会った私が受けた衝撃は、
この十数年後の日本の食カルチャーが向かう方向を、少しだけ予見していたのかもしれません。

パンの選び方、具材のバランス、食べる空間の演出──
それはまさに、「日常をデザインする」行為そのものでした。

だからこそ、私はこれからも、サンドイッチの進化を楽しみにしていたいのです。

サンドイッチは、文化。
サンドイッチは、都市。
サンドイッチは、未来。