✍️ グリップ革命の頂点で、私はそう思いました
ドクターグリップとアルファゲル。
この2本が市場を席巻していた頃、私は心のどこかで思っていました。
「もうこれ以上の進化はないだろう」と。
グリップは柔らかく、握りやすくなり、筆記具の進化はここで一段落するのだと感じていたのです。
🌀 それでも、芯は回りました──クルトガの登場
その油断を吹き飛ばしたのが、2008年に三菱鉛筆から発売された「クルトガ」です。
“芯が回転する”という仕組みは、単なるギミックではありませんでした。
ノートを美しく書きたい、文字を整えたいという 「美意識」 に響いたのです。特に学生たちにとって、クルトガは「筆記道具」から「学習の味方」へと進化しました。
私は今でもあの日のことを覚えています。
毎日のようにクルトガが売り切れていたある日、三菱鉛筆の営業担当の方が「今日は3本だけ、手持ちで持ってきたんです」と、そっと届けてくださいました。
それを丁寧に並べた売場は、まるで宝物のようでした。
⚙️ 繰り出し機構で勝負する時代へ
クルトガのヒットを皮切りに、各社は「芯をどう出すか」で勝負を始めました。
いわば、シャープペンシルの 「機構戦国時代」 の幕開けです。
製品名 | メーカー | 特徴 |
オレンズ | ぺんてる | 芯が出ないまま書ける。0.2mmという極細芯でも折れない機構を実現。 |
デルガード | ゼブラ | 筆圧を吸収する内部スプリングで、どんな強さでも芯が折れない。 |
モーグルエア | パイロット | 筆圧に応じてペン先が沈むクッション機構。※現在は廃番。 |
🧭 その後のシャープペンシルのゆくえ
シャープペンシルの進化は、グリップ革命や芯繰り出し機構の革新だけにとどまりませんでした。
文具の世界はやがて、“書き味”から“所有感”へと重心を移していきます。
その中で注目されたのが、
「製図用シャープペンシルの再評価」 と、「リバイバルブーム」です。
🔧 製図用シャープペン、再び脚光を浴びる
かつては廃番寸前だった スマッシュ(ぺんてる) が、YouTuberによる紹介をきっかけに突然の大ヒット。
「プロ仕様」「限定カラー」「硬派なデザイン」といったキーワードが中高生の心をとらえました。
これを機に、他社も名機のリファインに取り組みはじめます。ユーザーである学生達も「まだみんなが持っていない良いペン」を探し始めました。
- ステッドラー 925シリーズ:ドイツ製の機能美が再注目されました
- パイロット Sシリーズ/H-1005:オールドファンからの根強い支持
- プラチナ プロユース171:シンプルかつ堅牢な作りが再評価
- ぺんてる グラフシリーズ:製図用シャープペンシルの決定版
コラム:製図用の高価なシャープペンシルは書きやすい?
文字を書くという観点では、製図用モデルは決して「書きやすい」わけではないのです。
元来、製図用シャープペンシルは「一定の太さで正確な線を記すことができる」ために作られているのです。ぶれにくいペン先構造、字幅の豊富さ(筆圧で太さを調整しない!)、3mm厚の製図用定規で正しく線を引くための長いガイドパイプ、すべて作図精度向上のための機能です。
しかし今や、製図用シャーペンは 「机の上に置いて満足できる道具」 へと進化しています。
🔁 そして始まる、シャープペンのリバイバル現象
さらに近年、「かつて流行したが一度は忘れられた名品」の復活が相次いでいます。
なかでも象徴的なのが、ぺんてるの ケリー です。
1971年に登場したこのモデルは、キャップ式というユニークな仕様を持つシャープペン。
一時は時代に取り残された印象でしたが、SNSや文具愛好家のあいだで人気が再燃。
復刻カラーや限定版の登場により、「レトロだけど新しい」魅力が世代を超えて共有されています。
🪞 シャープペンは、嗜好品の時代へ
このように現代のシャープペンは、機能性重視の道具から “持つ喜び” を備えた文具へと変化していきました。
次回は、シャープペンシルブームの火付け役スマッシュに付いてのおはなし。