奈良に息づく墨づくりの文化
南都七大寺のひとつに数えられる元興寺の旧境内界隈は「ならまち」と呼ばれている。10年ほど前、取材で奈良を訪れた際に、同行したカメラマンと二人でここを歩いた。午前中のロケが早々に終わり、次の訪問先へ向かう約束の時間までの暇を持て余していたからだ。
かつて門前町として栄えたこの一帯は、江戸時代に入ると奈良晒(麻織物)や酒造、醸造といった商業が盛んになり、町家スタイルの古い商家が立ち並ぶようになった。町家はご存じの通り、間口は総じてコンパクト。その分、奥行きが深い造りになっている。風情ある家々の門構えや格子戸を眺め歩いていると、扉の隙間から家屋の奥へとつながる路地や庭の景色が見えたりして、なかなかに楽しい。その時、「墨」と書かれた扁額を見つけて立ち寄ったのが「古梅園」だった。