匂い・清潔感・音、すべてが敵
子どもの頃から、歯医者は大嫌いだった。
あの独特の匂い。
無駄にピカピカな床と、やたら整然と並んだ器具たち。
そして耳をつんざく「キュイイイイイィィィィィ」という機械音。
全部まとめて、私の神経を逆撫でする。
しかも私は歯磨きも下手で、すぐ虫歯になる。
なのに治療では大暴れ。
麻酔なしでゴリゴリ削られたトラウマは、いまだに夢に出る。
治療中、なぜか見守られる
さらに忘れられないのが、当時の先生の奥さんの存在だ。
なぜか毎回、治療中に診察台をのぞき込みに来る。
理由を聞けば、「先生のご子息と顔が似ているから」。
……治療中にそんな理由で見守られても、落ち着くわけがない。
あの頃のことを知っている先生方とは、今でも目を合わせづらい。
歯医者を変えても地獄は続く
大人になって歯医者を変えても、状況は好転しなかった。
一週間前に歯石を取ったのに、次の診察でこう言われたのだ。
「もう歯石が溜まってますね」
恐怖と恥ずかしさで、ますます歯医者嫌いに拍車がかかる。
麻酔を打ってもらえるから痛くはないのに、心のバリアは外れない。
行く時はもう手遅れ
こうして私は、歯医者に“コンディションが悪くなってから”しか行かない人間になった。
だから、毎回こうなる。
「これはかなり進行してますね」
「神経に届いてます」
「抜きましょう」
――歯医者は、私にとって今も「笑顔で残酷なことを言う人たちのいる場所」だ。
小さなコラム:歯医者は世界中で嫌われている?
実は、歯科恐怖症(Dental Phobia)は世界的にも珍しくない。
イギリスでは人口の約36%が、歯医者を「怖い」と感じているという調査がある。理由は、痛み、機械音、治療の匂い、そして子ども時代のトラウマ。
……つまり私のようなケースは、世界基準で見ても“よくある話”なのだ。
このあと私は、さらに別の事件で歯医者との因縁を深めることになる。
――それは「親知らず全抜き事件」である。