嵐の口内環境
あの頃の私の口は、嵐のように荒れていた。
歯磨きは下手くそ、虫歯多数、歯肉炎、そして歯茎が腫れると発熱する体質。
そんな中、親知らずが全員そろって顔を出してきた。
――いや、正確には右下だけ「頭の先っちょ」しか出していない。
運命の決断
先生と相談の末、「全抜き」決定。
ただし右下は抜歯困難につき、口腔外科へ送られることになった。
口腔外科に着くと、隣の椅子では何人もの患者があっさり抜歯を済ませ、軽やかに帰っていく。
しかし私の番になると…抜けない。
土木作業開始
先生はついに土木現場のような道具を手に取った。
ギシギシと揺らし、力を加える。
私の顎は「これ以上は壊れる」と本気で思った瞬間――ようやく抜けた。
あとで聞けば、歯根にわずかな膨らみ(瘤)があり、それが成長時に歯の露出を阻害し、抜歯の障害にもなっていたらしい。
戦いの余韻
顔の腫れは早々に引いたが、骨を削った影響で頭は割れるように痛む。
歯茎の腫れもなかなか治らない。
消毒通院前日、私は思い切って煮沸消毒したガーゼで傷口を圧迫した。
――膿が出た。
アルコールで消毒し、その夜は死んだように眠る。
翌朝、劇的に改善し、診断でも「良好」の判定。
こうして長い親知らず戦争は幕を閉じた。
後日談
数年後、気づいたことがある。
口内トラブルが激減したのだ。
あの時抜いた右下の親知らずは、実は私の口内環境にとって“最大のトラブルメーカー”だったらしい。
コラム:世界の親知らず事情
欧米では、親知らずは若いうちに予防的に抜くことが多い。
理由は、成長が進む前に抜けば負担が少なく、将来のトラブルも避けやすいから。
一方、日本では「痛みや腫れが出るまで様子を見る」ことも少なくない。
抜くか温存するかは、歯磨き技術・通院頻度・口内環境・そして歯科医の方針による。
私の場合は、抜いたことで長年のトラブルが減った。
――あなたなら、親知らずは抜きますか? それとも温存しますか?