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文房具店でよく聞かれる「普通のボールペンください」

文房具店で働いているとよく聞かれる質問がある。「マジックはどこにありますか」「黒の替え芯を1本ください」「普通のボールペンください」一般的な質問のように思えるかもしれないが、中には難儀なものもあるので、ここに私なりの解答例を示していく。

まず一つ目。「マジック」が"商標"であることは聞いたことがあると思う。

「マジックはどこにありますか」と聞いてくるお客様には、「マジックとはマジックインキ(寺西化学工業株式会社)のことですか?それとも油性マーカーのことですか?」と質問し、答えが前者であろうと後者であろうと、油性マーカーの売り場へご案内する。

殆どの文房具店では油性マーカーの売り場にマジックインキが置いてあるだろう。

経験的に、多くの人がよく言う「マジック」とは寺西工業化学株式会社のマジックインキではなく、手品のことか油性マーカーのことを指しているのである。そして多くのお客様はハイマッキー(ゼブラ)を購入して帰っていくのだ。

「マジックはどこにありますか」と聞いたとき、もしかしたら「マジックってなんですか?」と聞き返されることがあるかもしれない。それは意地の悪い文房具店だ。

ちなみに、文房具店でマーカーを探す時のポイントは用途を伝えることである。「写真に書き込みたい」「黒い紙に書きたい」等の要望を伝えれば、適当なマーカーを案内してもらえるはずである。

マーケティング理論で言うと、ドリルを買いにきたお客様には各ドリルのスペックを説明するのではなく、どんな穴を誰がどこになんの為に開けるのかを聞く必要がある、ということだ。要するに、ドリルを買う人が欲しいのは「穴」なのである。

 

次に二つ目。

「黒の替え芯を1本ください」とレジカウンターにくるお客様には「使い終わった替え芯はお持ちですか」と聞く。持っていない場合はペン本体を見せていただくか、ペンの商品名を伺う。

実はペンの替え芯はペンの種類によって異なり、その種類は国内流通品だけで3桁はある。それ故に「黒の替え芯」という言葉だけでは商品を特定できないのだ。

ちなみに「ジェットストリームの黒の替え芯をください」と言われても、「お持ちのジェットストリームは単色ですか?それとも多色ですか?芯の太さはお分かりですか?」と聞く必要があるので、正しい替え芯の求め方としては「三菱鉛筆のジェットストリームの3色ボールペン0.7mmの黒色の替え芯を1本ください」と伝えると完璧である。

こんな長いの覚えられないという人は、使い終わった空の替え芯、もしくはペン本体を持っていけば万事解決だ。

 

そして最後。

「普通のボールペンをください」これはヤバイ、最も困る質問だ。なぜならボールペンを全て合わせると4桁ほど種類がある。

これを聞いてあなたの頭にはどんなボールペンが思い浮かぶだろうか?フリクションボールペン(パイロット)の人もいるだろうし、ジムノック(ゼブラ)やベリー楽ノック(三菱鉛筆)を思い浮かべる人もいるかもしれない。

このような固有名詞が思い浮かぶこと自体なく、漠然と「文字のかけるペン」を思い浮かべる人もいるだろう。意地の悪い文房具店では「こちらをどうぞ」と定価1万円のパーカー・ソネットスリムボールペンをお勧めしてくる可能性もある。

最初に確認しておくべきことは、「特定のボールペン」を探しているのか、それとも「文字が書けるボールペンなら何でも良い」のかどうかである。

「文字が書けるボールペンなら何でも良い」という場合は、使う用途や場面を確認して適当なボールペンをご案内する。多くの場合はジェットストリーム(三菱鉛筆)かサラサクリップ(ゼブラ)で解決する。「特定のボールペン」を探しているが商品名がわからない場合は、難航する可能性が高いので長期戦になる覚悟で挑む。

「もうこれでいいよ」とお客様が妥協された瞬間に文房具店の敗北が決まる。せっかく商品を探しにわざわざ出向いていただいたのだ、納得のいくものを見つけていただくのが文房具店の使命である。こちら側に妥協は許されない。

ここからはさながらホームズのような探偵ごっこの始まりである。

はじめに「普通」とはどういった状態のものか確認する。

①ノック式

②キャップ式

③繰り出し式

 

次に「普通」とは何色であるのかを確認する。

①黒色

②赤色

③青色

多くの場合は黒色だろうが、赤色や青色を指す場合もあるので、決めつけることはできない。

あとは、ボールペンのインクを確認するのも忘れてはならない。

①油性

②水性

③ゲル

この中のどれに当てはまるか。

余談だが、フリクションインキもインク種類の一つである。しかし「こすると消える」ということはかなり特徴的な事項であるため、フリクションは比較的認知度が高い。そのためフリクションを求めるお客様は「フリクションが欲しい」と名指しオーダー制だ。

その他にもボールペン本体の外観の特徴など、いかにお客様から情報を得ていくかどうかが勝負である。必要とあらばメーカーのカタログをお客様と一緒に確認する。店頭の場合は「数ヶ月前にこの辺りに陳列されていたんだ」なんて言われることもあるだろう。

先に述べたように、市場には多くのボールペンが出回っている。その中にはデザインがリニューアルしたものや、多くの人に愛され廃盤になっていったものも数多くある。

そのため、残念ながらお客様がお探しの「普通のボールペン」をご案内できない場合があるのが事実である。もしあなたが自分にとって「普通のボールペン」「唯一のボールペン」に出会った時、そのボールペンの名前をぜひ記録しておいて欲しい。

文房具店での業務はこのようなよくある質問への対応がほとんどであり、日々頭を悩ませる部分である。