旅人へ向けたお土産品が歴史の始まり
有松・鳴海絞の歴史は400年以上前、江戸時代まで遡る。東海道の鳴海宿と池鯉鮒(ちりゅう)宿の間にあった有松地区は丘陵地帯で農業に向いておらず、鳴海宿との距離も近かったため、宿場町としての発展も難しい状況にあった。
そこで住人の一人である竹田庄九郎が名古屋城の築城のために九州から来ていた職人から絞り技法を学び、東海道を行き来する旅人に向けて手ぬぐいなどの土産物を販売。これが爆発的人気を博し、一躍街道の名物になったのが「有松・鳴海絞」の始まりだと言われている。
「縫う」「括る」「畳む」…。染技法はなんと100種以上!
有松絞りの特徴は、美しく繊細なその模様。
布をくくって染める絞りの技術で、さまざまな文様を描き出すのだが、過去にはその絞技法は100種類以上にも及んだとか。今はそのうち75種類ほどの技術が、受け継がれているという。複雑な模様をひとつひとつ手仕事で作り上げていく様は、まさに圧巻。
多数ある技法の中から、ほんの少しだけその技法を紹介しよう。
1つ目は絞り技法の中でも基礎的な「杢目(もくめ)絞り」
縫い絞りの技法のひとつで、染め上がりが木の断面の木目のような筋模様になる技法。線と線の間隔や針目の大小、布の厚さによって、いろいろな種類のものができる。
2つ目は有松に古くから伝わる「蜘蛛絞り」
染め上がった模様が蜘蛛の巣のように見えることからこの名が付いたそう。有松・鳴海絞の開祖・竹田庄九郎が最初に作った手ぬぐいも、この技法を使っていたとか。
3つ目は浴衣紋様として人気の高い「雪花絞り」
「板締め絞り」のひとつで、染め上がると雪の結晶のような紋様が浮かび上がる。生地を一定の形に畳んで色をつけるのだが、折り方や染める色によって雰囲気がガラリと変わる。
絞りの技術は複雑多岐にわたるため、一人で何種類もの技法を習得するのは不可能だと言われている。例えば、上記であげた「蜘蛛絞り」も、手蜘蛛絞り、機械蜘蛛絞りとさらに細分化。一人の職人がひとつの技法を極めてきたからこそ、ここまで種類が増えたのだろう。
ちなみに「有松・鳴海絞会館」では、この絞り染めを伝統工芸士が毎日披露している(コロナ禍により2021年3月現在は休止中)。筆者は一度見学させてもらったことがあるが、間近で見るとその技のスゴさを本当に実感。
見学当日は「巻上絞り」が専門の伝統工芸士による実演で、見学しながら話も聞けたのだが、くくりが弱いと染料がにじみ、模様がボケてしまうそうで、力と根気がいる仕事なんだとしみじみ思ったものだ。館内には有松絞りの歴史や技術についての資料も豊富にそろっているので、じっくり見て学ぶのもおすすめ。
また、有松の町では、絞り体験ができる施設も多数あるので、興味がある人はぜひ体験してほしい。
カラフルでかわいい商品も続々登場
一般的な絞り染めと言えば、藍色の渋いイメージがあるが、有松絞りも例外ではなかった。でもそれはもう昔の話。
現在では赤や黄色など、カラフルな色合いの商品がたくさん生み出されている。かつては手ぬぐいや浴衣が中心だったラインナップも、今は洋服や小物、アクセサリーといった、若い世代をターゲットにした商品やブランドが多数存在している。
なかでも、デザイナーズ・ファッションブランド「cucuri(くくり)」は、絞りの技法を活かした斬新なデザインが好評で近年話題になった。一見インパクトが強くて不安視されがちだけど、実際に着てみると意外なほどしっくり。
もともと有松絞りは軽やかで涼しい感触のため着心地もよく、絞りの種類によってはフォーマルにもカジュアルにもなる。独特の風合いと立体感で、じわじわと人気が広がっているそうだ。
しかし、心配になるのがそのお手入れ方法。これまた意外。実は自宅洗いができるのだ。洗濯ネットに入れれば、洗濯機で洗ってもOK。立体的な絞りも形状固定加工を施しているので、型崩れしないんだとか。これは嬉しい!
こうしてみると、伝統工芸品のイメージが少しは変わったのではないだろうか?
最初はアクセサリーやストール、小物雑貨などから、日常に取り入れてみるといいかもしれない。もちろん、男性が持っていてもおかしくはない。むしろおしゃれ感がアップし、好感度があがるかも?女性へのプレゼントでも喜ばれそうだ。