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石彫作家は今日もあなたのための作品を彫り続ける

ニューヨーク、パリ、中国、台湾などで活躍する石彫作家、松崎勝美(まつざきかつよし)氏。今回は松崎氏の仕事場と東京をZOOMで繋ぎインタビューを行った。インタビューというより、旧友との再会話になってしまったことをご了承いただきたい。

三十歳で、デザイナーから石屋に転職。

※ZOOMにてお互いの顔が映し出される。

松崎:あ、映った! もんりんや(※彼は森川をこう呼ぶ)

森川:うわ、かっちゃん(※森川は彼をこう呼ぶ)おじいちゃんになったなあ(笑)。

松崎:それはお互いさんや(笑)。

森川:そういえば、かっちゃんのお爺さん、雛人形の頭師さんだよね?

松崎:うん、正しくはお爺ちゃんではなく曽祖父やけど。川瀬猪山って名前でな、あの人はすごい人や。日本一の頭師と違うかな。なにしろ皇室御用達やからな。あ、でもな、俺の作品にお爺ちゃんの影響はないよ。

森川:そうか、それ聞こうと思っていたんだけど(笑)。

ZOOM取材に応じてくれた松崎氏

 

森川:僕とかっちゃんが20代の前半で出会って、紆余曲折あって二人とも独立してデザイナーとしてオフィスをシェアしていた時代もあったでしょ。その後僕は会社作って、かっちゃんとは少し音信不通になって、気がついたら石屋に就職したって聞いてびっくりしたよ。どうして急に石屋になったん?

松崎:びっくりしたやろ(笑)。なんで石屋になったか…というのは、よく分からんわ(笑)。まあ、自分の人生やし、やりたいことしたかったから、気がついたらそうなっとった(笑)。なんで石屋になりたかったかは、あまり覚えてないけど、石が好きで仏像が好きやったからかな。

森川:そうなんか。でも石彫ってキツイやろ? 僕も大学で彫刻専攻していたから分かるけど、だいたい石って硬いやんか(笑)。

松崎:あはは。硬いで石は(笑)。でも仕事やからな。石屋に就職してから、毎日仏像を彫ってたわ。

森川:毎日かー。それは、もう工場の職人さんみたいな感じ?

松崎:そうや。来る日も来る日も、同じ仏像を同じように彫ってな。ほんまに工場のおっちゃんやったで。でもな、毎日楽しかったわ。もう好きなだけ石彫ってたよ。

森川:その仏像はどれくらいの大きさ?

松崎:30センチくらいかな。それを毎日、決まった型で彫るんや。

松崎氏の使用する道具。頑強な石を割ったり、削ったりする。こんなゴツゴツした道具から、繊細な作品が生まれるのは驚きだ
松崎氏の使用する道具。頑強な石を割ったり、削ったりする。こんなゴツゴツした道具から、繊細な作品が生まれるのは驚きだ。

 

 

ひとつひとつの石像に表情がある。

森川:その毎日決まった仏像を彫る仕事から、自分の作品を作り始めたのはいつくらい?

松崎:3年くらい経ってからかな。それも、どうして自分の作品作り始めたのかは分からんけど、気がつけば自分が本当に作りたいものが、石の中にあったんやと思う。

森川:石屋の仕事しながら、自分の作品を作るって、キツいよね?

松崎:まあ、それはそれでキツイけど、作品を作ってる間は没頭しているからな。

森川:そこから作品を作り貯めて、作家としてメシが食えるようになるわけやね。

松崎:まあ、「食えてる」と言っても危ういよ(笑)。ちょうどリーマンショックの頃(2008年)に石屋さんの仕事がガクっと減ってな。その頃から自分の作品が少しずつ売れるようになったんや、おかげさんでな。

実際に森川は3年前に京都の個展の情報を聞きつけ、京都まで小さな石像を買いに行ったことがある。それは既にウェブで松崎氏の作品を知っており、ある理由から、どうしてもその石像が欲しかったからだ。彼の作品は「想守(おまもり)」と名付けられている。

森川が購入した想守

 

森川:僕、3年前に京都でかっちゃんの「想守」を買わせてもらったで。

松崎:聞いてるでー。娘さんが亡くなったんやろ。もんりんも大変やったな。

森川:うん。娘のことをいつでも想い出せるには「これや」って思ったんだ。今も毎日その想守に手を合わせているよ。

松崎:おおきに。ええ話や。それが俺の作りたかったことや。作品を通じて買ってくれた人の心の中に「想守」が居て欲しいと思ってるからな。

森川:個展で他にも作品を観せてもらったけど、よーく見るとみんな微妙に表情が違うんやね。

松崎:うん、その通り。顔が違うんや。だから、これは選ぶ人が、なんかの想いで買ってくれたらええと思てるよ。

森川:僕は、娘のことを想ってしまうよ。

松崎:せやろ。俺の作品は、その人の想いが作品の表情になればええなあと願って作っているんや。ハッピーならハッピー、悲しいときは悲しさを受け止めてくれるような。だから、そのひとにとって、大事な何かになってくれれば俺にとって、こんな嬉しいことはないわ。作品と向かい合って語り合える相手になって欲しいねん。

森川:かっちゃん自身が作品を作る時は、どんな想いでやってるの?

松崎:そうやなー。無心で彫ってるわ…と言いたいとこやけど、いろいろな事を考えてるな。作ってる時は誰が買ってくれるか分からないけど、買ってくれる人に喜んで欲しいし、その人の想いに合致できたらええな…と考えつつ、色々な人の顔を思い出しながら、やらせてもらってるよ。作ってて一つ一つの「想守」に対して、「可愛がってもらえよ」って願いを込めているしな。

森川:デザインの仕事している時もカメラでよく人物とか撮影してたしね。

松崎:うん。きっと俺は人間が好きやねん。こんな京都の山の中で独りで仕事してるけどな(笑)。

仕事場が京都であることのステータス

森川:仕事場はかっちゃんの地元の京都なんやね。

松崎:せや、デザイナーの頃は大阪まで出掛けて仕事してたけど、石屋さんが京都だから、生まれ育った街で仕事してるわ。仕事場は京都市内やけど、山の入り口に工房があってな、そこで音を最大に鳴らしても怒られへんようなとこやで(笑)

森川:ええな。爆音でロック聴きながら仕事するって最高や。

松崎:うん。まあ、最近はあまり爆音出さへんけどね。あ、そや、京都って作家にとって便利な街なんや。海外に向けて「京都で作家してます」…というと「ほーっ」てなるもんな。京都は海外で説明するには伝えやすい街や。まあ、俺は、たまたま京都で生まれて育ったんやけどね(笑)。

自然に囲まれた松崎氏の工房

 

ニューヨーク個展でパティ・スミスが買ってくれた。

森川:なるほど。作品展は、日本以外に海外でも開催したんやろ?

松崎:おう、やったで。ニューヨーク、パリ、台湾、中国、韓国かな…。

森川:すごいな。ニューヨークか!

松崎:すごいやろ(笑)。しかも7回もニューヨークでやったで。あのな、俺がもんりんと同じオフィスでデザインしている頃、いつかニューヨークという場所で何かしたいと思っていたんや。その「何か」はずっと分からんかったけどな。そして、石彫作家になって「ここで個展してやる」と決めての渡米したんや。そしたらな…見つかってん(笑)。個展会場が。さくっと。

森川:さくっと…(笑)。それ素敵やな。きっと運命やで。ニューヨークで個展すると決めていたのがすごいわ。

松崎:そうやろ(笑)。ほんでな、その個展会場にパティ・スミスが娘さん(ジェシー・パリス・スミス)と一緒に来てくれてんぞ!

森川:まじか、パティ・スミス!パンクの女王やん。

松崎:そうや。そんで、個展で作品を3つも買ってくれてん。さらに展覧会の中で一番好きな作品を、すぐそれ見て買ってくれたんや。その個展で俺が一番気に入っているやつ。

左からパティ・スミス、ジェシー・パリス・スミス、松崎氏

 

森川:すごいな、それ。

松崎:うん。俺、その時めっちゃ「仕事しててよかったなー」って本当に思ったわ。

森川:うんうん。ええ話や。

松崎:そうそう、娘さんがプロデュースしてはる「Climate March」という気候変動問題のデモの支援ビデオのラストカットで、俺の作品が出てくるんや。

森川:うわー、それもすごいな。

松崎:ありがとう。その個展以降も付き合ってくれていのが嬉しくてな。広がりもあったし、ほんまに、この仕事続けててよかったわ。

ジェシー・パリス・スミス制作のClimate March動画のラストシーン

 

松崎氏のニューヨーク個展の会場(上記2点)

 

還暦過ぎてもエネルギッシュな石彫作家

森川:もう、ここまで色々成功すると、残りの人生、あんまり欲しいものないやろ。俺も還暦回って、すごく物欲とか減ったわ。

松崎:いや、俺はあるで(笑)。めっちゃある。めちゃめちゃ欲しいものだらけや。例えば服も欲しいし、骨董品も欲しいし、サーフボードも欲しい。

森川:サーフボード! まだサーフィンやってんの?

松崎:やってるで、でもコロナで海入ったらあかんからな。今は我慢しているけどな。じじいなりに頑張ってる。

森川:ほんまか、全然変わってへんなあ。

いまでも現役サーファーの松崎氏

 

松崎:ところで、こんなズルズルな話で取材になるんか?

森川:うん、たぶんこうなるやろと思ってたわ(笑)。

松崎:わはは、俺もそう思ってた。

森川:ほんなら、石彫作家・松崎氏は、いまでも欲しいものだらけの煩悩の塊やって書いとくわ(笑)

松崎:あはは、ええで。こんど京都にも遊びに来てな。

森川:うん、もっと工房の写真とか撮りたいし、落ち着いたら取材と称して遊びに行くわ。

松崎:おう、ぜひ来てくれー。