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貴種流離譚──なぜ僕たちは“旅に出た王子”に心を掴まれるのか?

プロローグ:どこかで聞いたことのある物語

高貴な血を引く少年が、ある日すべてを失い、長い旅に出る。
試練のなかで仲間と出会い、力を得て、自分の使命を知る。

そして最後には、自分のいた場所に帰り、真の自分として再び立つ。

この物語、どこかで聞いたことがありませんか?
『ゲド戦記』、『ライオン・キング』、『スター・ウォーズ』……。
実はこれらすべて、「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」という
古くから語り継がれてきた物語の“型”に属しています。


「貴種流離譚」ってなに?──古代神話から現代映画まで

「貴種流離譚」とは、高貴な血を引く主人公が、何らかの理由で
故郷や地位を追われ、旅に出て成長し、最終的に帰還する──
という構造を持つ物語類型です。

この構造は、世界各地の神話・昔話・文学・映画に驚くほど共通しています。

たとえば──

  • オデュッセウス(ギリシャ神話)

  • モーセ(旧約聖書)

  • アーサー王(ケルト神話)

  • 牛若丸(日本の伝説)

  • 竹取物語のかぐや姫

  • 『ゲド戦記』のゲド

  • 『シュナの旅』のシュナ

  • 『スター・ウォーズ』のルーク

  • 『ハリー・ポッター』

彼らは皆、「高貴な存在」でありながら、いったん力を失い、
自らの道を見つけ、帰還する──という流れをたどっています。

この型には名前こそついていなくても、
なぜか世界中の物語に自然と存在しているのです。

ちなみに、この物語のテンプレート構造はこんな感じです:
王の旅立ちと帰還


なぜ貴種流離譚は、こんなにも心を揺さぶるのか?

この型が長く語り継がれてきたのは、
人間の「根源的な願い」や「成長のプロセス」と
深く結びついているからかもしれません。

貴種流離譚には、こんな要素があります。

  • 発見:自分の中に眠っていた「力」や「使命」を知る

  • 喪失:いったん居場所を失い、無力になる

  • 仲間:旅のなかで、助け合う存在と出会う

  • 帰還:旅を経て、別人のように成長して帰ってくる

つまりこれは、「人間の成熟の物語」でもあるのです。
私たちはどこかで「自分も、本当はなにか特別な存在なのではないか」と
願っていて、貴種流離譚はその夢を静かに肯定してくれる──
そんな効能があるように思います。


思い出の中の「ろばのかわ」

子どもの頃、私は『ろばのかわ』という絵本が大好きだった。
王女はロバの皮をかぶって、貧しい少女に姿を変える。
けれど、物語のクライマックスで──
彼女は「空のようなドレス」「月のようなドレス」「太陽のようなドレス」を身にまとい、王子の前に現れる。

俯瞰して構造を捉えると「王子と結婚し、幸せになるお姫様の物語」も貴種流離譚の一種におもえる。
表にまとめてみた。

ステージ

内容

高貴な出自

王女として生まれ、才色兼備。だが実父との結婚を迫られるという試練。

逃避・流浪

ロバの皮をまとい、身分を偽って街の片隅で暮らす。

試練と隠遁

汚れた姿のまま働きながら、心を守り抜く日々。

覚醒と選ばれる瞬間

王子が、王女の本当の美しさ・人格に気づく。

再生と結婚(帰還)

貴種であることが明かされ、王子と結ばれる。

 

3つのドレス


エピローグ:次に旅立つのは誰か?

お気に入りの物語を思い出してみてください。
もしかしたら、そこにもこの型が隠れているかもしれません。

あるいは、あなた自身の人生にも──。

居場所を離れ、知らない世界に飛び込み、
失敗して、仲間と出会い、学び、成長する。

もしそうなら、あなたもまた、現代の“旅する王子”なのかもしれません。

そして、物語はまだ続いていくのです。

なんちゃってアーサー王物語