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「甲州印伝」、知るほどに心惹かれる鹿革と漆の様式美

印伝とは甲斐の国を発祥とする革工芸のこと。かつて武田信玄公が活躍した戦国期から、主に鎧や兜といった武具に用いられ、実に400年以上にわたって受け継がれてきた伝統工芸の一つです。今回はその「甲州印伝」の魅力をご紹介します。

先日、東京・青山にある「印傳屋 青山店」さんへ、とあるメディアの取材で伺う機会がありました。青山は、社会人になりたての頃から慣れ親しんできた街。南青山2丁目に印傳屋さんがあることは30年ほど前から存じあげていましたが、残念ながらなかなか立ち寄らせていただくチャンスに恵まれず……。

実際にお邪魔してじっくりと店内を見て回るのは今回が初めてでした。そこには、海外発のラグジュアリーブランドを思わせる素敵なショールーム空間が広がっていました。

「甲州印伝の技は、代々上原家の家長となり“勇七”を名乗る者だけに口伝されたといわれています。

現在の当主は13代目ですが、12代目までは門外不出の秘法だったんですよ」と笑顔で語ってくださったのは、青山店・店長の加藤淳史さんでした。

軽く丈夫な鹿革をさまざまな道具に仕立てる加工技術は古くからあったといわれています。例えば、藁の煙でいぶして着色する「燻べ(ふすべ)」は奈良時代に遡り、革を染めあげる染色技法も武士が台頭する戦国時代にはかなりの進化を遂げていたようです。

一方、甲州印伝の始まりは1582年。現在の山梨県甲府市に創業した印傳屋がその端緒となりました。

そして、いまや甲州印伝の代名詞ともいえる「漆を施す独自の技法」は、江戸期に入ってからのもの。宗家家長の上原勇七によって創案されたと伝わり、武具から巾着袋や莨入れ(刻みタバコを入れる袋)などの生活用品に姿を変え、粋を大切にする江戸庶民たちの間へ瞬く間に広がっていきました。

鹿革に漆で紋様を描くようになった理由は、鹿革の装飾の枠を越え、実用性を高めるための工夫でもあったそうです。肌触りがよく柔らかい鹿革は意外と思えるほど耐久性が高い反面、起毛したような優しい風合いは、汚れなどが付着しやすいという点があり、愛用の革製品をいつまでも長く愛用できるように、革を保護する漆を塗る技法があみだされていったのです。

シンプルかつミニマルでありながら、豊かな上質感を醸す古典模様

実用性のみならず、デザインの美しさも印伝の大きな魅力です。

実は筆者も一目惚れして名刺入れを購入させてもらいました。そのデザインは瓢箪(ひょうたん)模様。鈴なりに実を付け、それぞれの実からたくさんの種を生む瓢箪が、子孫繁栄や豊穣の象徴であることはよく知られたところでしょう。



手に取った印象は「とにかく軽い!」の一言。触り心地、開き心地も柔らかく、日々身につけて使い続けるモノとして、いいお買い物ができたと大満足です。モノグラムパターンのように並んだ模様が、漆ならではのしっとりとした光沢を放ち、主張しすぎない上品さを感じさせてくれます。

店内には他にも、武士の陣羽織などに用いられ、鱗で身を守ることから厄除けの意味で使われてきた波鱗(なみうろこ)、大海原の無限の広がりをデザインした青海波(せいかいは)、“あきつ”と呼ばれ、前にしか進めず退かないことから勝負強さを表す虫とされる蜻蛉(とんぼ)柄など、さまざまな吉祥模様があしらわれた製品が所狭しと並べられています。

ベーシックな古典柄に、創作柄を含めると、その数180以上。素材となる多種多様な色の鹿革と組み合わせることで、膨大なバリエーションが生まれます。

時代にマッチしたモダンな意匠

「柄だけでなくアイテムも豊富ですよ。合切袋や巾着、お財布といった昔ながらの和の道具も取り揃えていますが、近年はショルダーバッグやポシェットなど、普段の暮らしに取り入れやすい製品も数多くラインナップしています」

伝統を受け継ぎながら、常に時代の要求に応える新しい試みを続けてきたというブランドらしく、フォーマルな場面にふさわしいハンドバッグ、最近流行のリュックサックなど、モダンなフォルムの製品が目を惹きます。

とりわけ男性目線で気になったのは、普段使いに重宝しそうなビジネスバッグや、旅に携えたいボストンバッグ。大小七宝、市松といった伝統的な連続模様が、それを表現する漆の光沢感と相まって、現代的な印象を体現しています。

「漆は、時が経つほどに深みや輝きを増していきます。私が数年前から愛用している財布も、漆が艶やかさを帯び、鹿革本来の柔らかい風合いと調和しながらどんどん手に馴染むようになってきました。いわゆる革製品でいうところの“エイジング”を楽しめるのも甲州印伝の魅力の一つといえます」

ぜひ一度「実際に手に取ってそのよさを味わってほしいですね」と加藤さん。

伝統工芸品と聞くと、とかく古臭いイメージを持ってしまったり、品質は優れていても現代のライフスタイルに合わないのでは?と誤解してしまったりする人が多いかもしれません。

でも、2021年でオープンから40周年を迎える青山店のエントランスをくぐれば、そんな先入観もきっと吹き飛ぶはず。長い歴史に裏打ちされたジャパンメイドの確かな品質と美しさを確かめに、次の週末に出かけてみませんか。

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