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なぜ違うの? 電卓と電話のテンキー配列

電卓を使っていて、ふと考えたことはありませんか? 「あれ? テンキー配列が電話機と違う!」って。その理由は、2つのモノの使途の違いにありました。

電卓は「使いやすさ」を重視

日本で初めて電卓(正規名称は電子式卓上計算機)が生まれたのは1964年。

ほぼ同時期にシャープとソニーが新製品を発表したのですが、国産初と呼ばれるのはシャープ製のCS-10Aという機種でした。この時の数字の配列は、桁毎に10個づつのボタンがズラリと並んだフルキーという配列でした。

しかし、やがて電卓のキー配列が徐々に統一されていくようになります。

多くの製品が誕生していくにつれて一般化したのは、キーを叩く人が数字を打ちやすいよう使用頻度が極めて高い0を手前に、その他の数字は0に近い位置から順番に下から上へ並べていくというテンキー配列でした。

機種によっては00のボタンを設けている電卓がありますが、これも使用頻度が高いため下段に配置されていますよね。

メーカーによっては0や00のボタンがよりタッチしやすい位置に配されていたり、大きくなっていたりするケースもあり、機能にも独自の違いが設けられています。

「私はシャープ派」「私はカシオ派」などと、人によって意見がわかれることもあるでしょう。

しかし、若干の差はあるものの、ほとんどはこの配列が基本形。現在、ISO(国際標準化委員会)の世界規格として統一されています。

電話は視認性を重んじた「自然な見やすさ」

一方、電話のボタン配列は、ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)の統一規格として世界的に認知されています。電話の場合、ご存じのように数字は上から順に、1、2、3、と並びます。

これは、世界各国の言語が上から下へ文章を書き連ねていくことからもわかるように、人にとってはごく自然な並びとされているから。欧文は左から右へ、アラビア語は右から左へ、といった疑問も湧いてきますが、概ね多くの人にとっては見やすさに重きを置いた配列となっています。

電卓の使い方が「計算のためにたくさんの数字を入力し、とにかくランダムにボタンを押しまくる」のに対して、電話は相手先の番号を「正確に入力する」ことが求められます。つまりは、使途の違いがこの差に影響していると考えていいでしょう。

本当はどっちの配列がよい? なぜ統一されなかったの?

ちなみに電卓が登場した頃、電話機はダイヤル式が主流でした。

いわゆるプッシュホンが生まれたのは、電卓が世に出た5年後の1969年。それぞれが異なる進化の道を歩んでいったため、規格が統一されなかったのは容易に想像できますが、仮に双方が同時期に開発されていれば、もしかしたら同じキー配列になっていたかもしれません。

実はこの「どちらかに統一しよう」という議論、すでに1980年代のISOで喧々諤々と話し合われていたのだそうです。当時は「電話配列派」と「電卓配列派」とにわかれ「どちらが効率的か、人間工学的に優れているか」で舌戦が展開されました。

一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)のHPによると、当初は電話配列での規格統一を進めたい海外勢が優勢でした。

しかし、その主張に対して日本の電卓配列派が紹介したのは「電卓配列でOLが目の覚めるようなスピードで入力をしているビデオ」。これを見て、会場は静まり返ったのだとか。

結局は、慣れや習熟度の問題であるとの結論に達し、以降はこの論争自体が無意味であると決定づけられました。

こうして調べてみると、キー配列や規格の違いには多くの歴史的経緯や背景があったことがわかります。

電卓にしろ、電話にしろ、開発時はありとあらゆる配列パターンが俎上にあがり、どの並びが素早く押せるか、押し間違いが少ないかなど、検討に検討を重ねて決められたとも聞きます。

現在の仕様の土台が、先人たちのさまざまな試行錯誤や議論の上にあったことをどうぞお忘れなく。