オーソドックスだけど根強い人気を誇る「森繁ペーパーナイフ」
KDM(ナレッジ・デザイナーズ・マート)において、以前からロングテールなヒットを続けている商品の一つに「森繁ペーパーナイフ」があります。
ペーパーナイフは、封筒や書類袋の開封に用いる道具。 “ナイフ”と銘打たれた通り、かつては金属の鋭利な刃付けが施されていましたが、最近では安全性を考慮してか、セラミック製のものが一般的になりました。これは、防犯上の理由から刃物を店頭に置きたがらない文房具店さんが増えてきたことに起因します。
また、単純に封筒を開けるという目的に絞れば、電動・手動に関わらずレターオープナーを使ったほうが安全かつ効率的かもしれません。
私たち文房具業界に携わる者としては、こうした文化が時の流れとともに廃れてしまうことが残念でなりませんが、これも時代の変化なんですね。
このように、包丁やナイフといった刃物を扱うホームセンターさんでさえ見かけることが珍しくなってしまったペーパーナイフですが、今なお愛用されているファンが多いのも事実。いくつかのメーカーさんで昔ながらの製品が作られていて、とりわけ人気が高いのが「森繁ペーパーナイフ」なんです!
細みのフォルムながら、ステンレス鋼のブレードにABS樹脂製のハンドルが組み合わされ、見た目はいたってシンプル。660円(税込)というお手頃感も手伝って、KDMでも年間100本前後がコンスタントに売れていきます。
そして注目すべきは、この商品を手掛けているのが、日本一の刃物の名産地として名高い岐阜県関市に工房を構える有限会社 森繁さんであるということ。自社のホームページを持たないためインターネットで調べても詳しい情報を見つけられないかもしれませんが、包丁、鋏、ナイフなどの生産を続けてきた老舗メーカーです。その製品を一度でも手に取ったことがあるならきっとわかるはず! 高い技術力をお持ちだということが容易に想像いただけると思います。
時とともに移り変わる価値、いつまでも変わらない価値
ところで、ペーパーナイフの歴史を探ってみると、その隆盛は中世ヨーロッパに遡ります。15世紀頃に発明された活版印刷の技術によって、欧州では新聞や書籍が続々と発行されるようになりましたが、当時は印刷物が裁断されておらず、読み手が切り分けながらページを捲るのが当たり前でした。ちょうど雑誌の袋とじを破きながら中身を見るようなイメージですね。その際、必需品となったのがペーパーナイフでした。読書自体が貴族や富裕層など特権階級の趣味であったため、ある種のステータスシンボルとして発展していった高級品だったのです。
しかし、ある目的や役割が与えられた道具が、時とともにその使い方を変化させ、別の専門性や付加価値を持ちはじめていくことが往々にしてあります。元来、本を裁断しながら読むための道具だったペーパーナイフが、いつからか封筒を開けるツールへと進化していった例もまさにそれ。重厚な雰囲気が漂う書斎で、封蝋された手紙を手に取り、ペーパーナイフを使って器用に開封する。そんな欧米の映画やドラマでよく見かけるワンシーンを思い出される方も多いことでしょう。
他にもペーパーナイフの使い途は多岐にわたります。仕事柄、メーカーさんから仕入れた商品や、出版社さんに発注した書籍などが、日々、段ボール箱に梱包されて届きます。その際、カッターを使って梱包を解こうとすると、うっかり力が入りすぎて中身を傷つけてしまうことがあるんです。その点、金属製のペーパーナイフなら安心。それなりに堅牢性が高いので、クラフトテープをサクッと切ってスムーズに荷ほどきの作業ができちゃいます。
また、「森繁ペーパーナイフ」のパッケージに綴られた“使用上の注意”を見ると、「ホチキス針の取り外しにも便利です」と書かれています。確かに尖った刃先を使えば、ホチキス針を外すような繊細な作業はお手のものですね。複写伝票を1枚1枚切り離すといった細かい事務ワークも、ペーパーナイフなら手際よくできそうです。
長年、文房具を取り扱う仕事に携わっていると、「お客様ってスゴイ!」「こんな使い方もあるんだ!」と、驚きや気づきに立ち会える瞬間があります。この「森繁ペーパーナイフ」もまた、可能性を感じさせてくれるアイテムです。なんでもないデザインだけど、確かな機能がしっかりと盛り込まれていて、手にしっくりと馴染むフォルムと程よい重量感が身上。一度手に取れば、いつまでも長く愛せる、名品中の名品と呼べるかもしれません