元々は医療用として作られていた
ダーマトグラフは、ワックスをたっぷり含む軟らかくて太い芯を紙でくるんだ色鉛筆のことです。
語源となるギリシャ語では「dermato=皮膚」、「graph=書く」と訳されます。これは皮膚に書けるものという意味があり、何と手術の時にお医者さんが切る時にマークするために作られた筆記具なのです。
ダーマトグラフは、この類のペンを国内で唯一製造している三菱鉛筆の商標となります。昭和30年頃から製造され、昭和33年頃から軸を削らなくてもよい紙巻タイプとなった、意外と古参の文房具です。
一般的な名称はグリースペンシルと言い、ワックスをたっぷり含んだ軟らかくて太い芯が特長。ガラスや金属、プラスチックなど、色鉛筆やペンでは無理な素材にも難なく描くことができ、簡単に消すことができるので幅広い用途に使えます。
使う時は、糸を引っ張って軸先の紙をめくりながら新しい芯を出します。色鉛筆と違って鉛筆を削る必要がないので、鉛筆削りがいらないことはとても画期的でした。新人の頃は、紙の部分をめくりすぎて芯を出しすぎてしまい、色鉛筆の機能をダメにしてしまったこともありました…。
編集者・カメラマ・デザイナー必携の一本
このダーマトグラフは、かつては編集や写真、デザイン業界に携わる人の必需品でした。
雑誌や書籍に掲載する写真は、ポジフィルム(色が反転するネガではなく、撮影した色がそのまま写るフィルム)で撮影されていました。掲載する写真を決めるのは編集者の役割で、カメラマンから渡されたポジを一枚ずつルーペでチェックし、良いと思った写真のスリーブの上からダーマトで〇印をつけていきます。
その後、〇印をつけた写真を切り出し、一枚ずつポジ袋に入れて使用する番号のページをダーマトで記す…という使い方をしていました。芯が軟らかいダーマトなら、決定したポジに傷をつける危険性が低いので、現場では重宝していたものです。
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ノスタルジックに浸れる書き心地
時は流れ、撮影方法もデジタルにすっかり変わり、今ではダーマトの存在を知らないという人の方が多いでしょう。駆け出しの頃にお世話になったダーマトも、ペン立ての片隅ですっかり影を潜めてしまいました。
それでも、マーカーのインクが切れた時など、たまにダーマトを使うことがありますが、線を引く時の柔らかな書き心地に触れると「そうそう、これこれ」と、懐かしい気持ちを呼び覚ましてくれます。
使い方は人それぞれだと思いますが、こういう文房具はいつまでも大事にしていきたいものだと、ふと思うのです。