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英文領収書はどこで生まれ、どこへ行くのか?

文房具店の事務用品売り場などで時折見かける「英文領収書」。その秘密を紐解いてみると、興味深い発見や時代の流れが見えてきました。

ふと、ホームセンターで事務用具を物色している時、英文領収書なる商品を見つけました。一般的に領収書は、商品やサービスに対する対価を受領した証として発行するのが役割です。なにゆえわざわざ“英文タイプ”が流通しているのか? 外人さん向け? さまざまな「?」が頭の中を駆け巡りました。

お買い物をしたり、カフェでお茶を飲んだりすると、会計時にレシートをもらいますよね。でも、海外へ取材に出かけた際など、日本にいる時と同じような感覚で「領収書をください」とお願いしても、これがなかなか通じなくて困ってしまった経験が何度もありました。そもそも領収書=Receipt。「今、あなたに手渡したものが領収書ですけど??」なんて、怪訝な顔をされたこともしばしば。それ以来、私の中ではレシートが領収書。たまにタクシーの運転手さんが手書きで料金や日付を書き入れてくれる場合もありましたが、基本的にはレジスターから打ち出されるレシートが当たり前のものになっていきました。

つまり、手書きの領収書をことさらにありがたがり、レシートとは“別物”として捉えているのは日本人だけ。あえて手書きの領収書を発行してもらうのは、日本独自の文化といっても過言ではありません。

そもそも領収書の存在意義って……

調べてみたところ、経理上の手続きで経費を清算したり、税務署に申告したりする際、手書きの領収書が必ずしも必要とは限らないようです。海外で、感熱紙に印字されたあのレシートが正式な領収書として機能するのと同様に、実は日本でもレシートが有効です。法的に「手書きの領収書じゃなければならない」という決まりはありません。

むしろ、記載されている情報の改ざんが困難で、どんな品物やサービスを購入したかがしっかりと明記されているレシートの方が、商取引の証として信頼性が高いと判断されることもあります。デメリットを挙げるとすれば、感熱紙のレシートや領収書は、時間の経過とともに劣化してしまうことくらいでしょうか。最近のレシートは宛名を記入する欄が設けられている場合も多いですし、お願いすれば領収書の体裁を取ったレシートも受け取れます。

英文領収書が生まれた背景とは?

とはいえ、古くからの慣習として親しまれてきたのが手書きスタイルの領収書です。1980年代中頃からのバブル期には、多くの外資系企業が日本に進出し、訪日外国人の往来が加速したことによって、事務用品にも“英文タイプ”が数多くラインナップしました。英文領収書もその一つ。英文履歴書などとともに既製品が販売されるようになったのが始まりだといわれています。

不朽の名作「ノーブルシリーズ」をはじめ、なめらかな書き心地のノートで有名な文具メーカー・LIFEさんでも、往時、英文領収書を商品として開発・販売し、飛ぶように売れていたようです。

今回のテーマを記事にまとめるにあたり、同社のご担当者さんにお話を伺ったところ、30年前は名入れ印刷を希望するお客さんもたくさんいらっしゃったほどのヒット商品だったとか。曰く、外国人のお客さんが訪れるレストランやカフェ、ショップなどでニーズがあったと教えていただきました。

それでもなくならない英文領収書

時を経て現在、時代の趨勢によって領収書の需要も縮小傾向にあるようです。企業間の取引は銀行振込が主流となり、先述したレジから領収書を打ち出す会計システムが発達したことから、商店でも手書きの徴収書を扱う機会は滅多になくなったという声をお聞きします。

しかし、最近でも途絶えることなく、引き続き英文領収書を使用しているお店もあるようです。例えば、オシャレな雑貨店や飲食店、フラワーショップなどがそれ。見た目のカッコよさや独特の雰囲気が、お店のブランドイメージを格上げしてくれるからでしょうか。単なる証憑書類の枠を越え、活用されています。

コロナ禍によって残念ながら下火になってしまったインバウンド需要ですが、日本は豊富な観光資源を擁する魅力あふれる国。再び外国人観光客の皆さんがこぞってやってくる日もきっと遠くはありません。そうなると、今は細々と続いている英文領収書の存在価値が高まり、ニーズが再燃するかも? このように英文領収書は文具ウォッチャーとして今後も注目していきたいアイテムの一つなんです。