消せるボールペン界のヌーベルヴァーグ
先日の前編では消せるボールペンフリクション以前の歴史をおはなししました。今回は後半、フリクション以降の歴史です。
フリクションのインクが消えるメカニズムは各種メディアで紹介されているとおり「温度変化によってインクを透明に変色させて筆跡を消す」というものです。フリクション以前は消しゴムでインクを削り取るスタイルでしたから、インクを透明に変えるという考え方はまさにコロンブスの卵だったのです。
実は国内初のフリクションはハイライター
欧州デビューの後、日本では2006年11月フリクションライン、2007年3月フリクションボール(キャップ式でボール径0.7mm)とデビューしていきます。
年表にまとめるとこのような感じです。
- 2006年1月 欧州:フリクションボール07キャップ式発売
- 2006年11月 日本:フリクションライン発売
- 2007年3月 日本:フリクションボール07キャップ式発売
- 2007年9月 日本:フリクションボール05キャップ式発売
実はこの通り、日本の文具バイヤー達が初めて見たフリクションは、ボールペンではなくハイライターのフリクションラインだったのです。
この記念すべきフリクションラインは、すでに廃番となっており手に入りません。現在流通しているフリクションライトソフトカラーのような穏やかな発色でした。
新しい美意識
2006年以前、消せるボールペンは「そもそも消えるのかどうか」という点が評価されていました。しかしフリクションはあまりにもきれいに消すことが出来たので、評価のポイントが一般の筆記具と同様「より美しい筆跡」「発色の良さ」「書きやすさ」という段階へ進化していったように感じます。
そして、瞬く間にキャップ式のボールペン細字0.5mm、ノック式ボールペン、多色式、多機能式(シャープペンシル機能があるタイプです)、色鉛筆、カラーペン、スタンプ(これ人気です)とバリエーションが増えていきました。
フリクションの影響
2011年頃(東日本大震災の頃)、フリクションノックタイプの商品不足はピークに達していたように思います。
勿論お店での欠品に悩まされるという現象も起きていましたが、どうやら水面下では修正テープの生産数低下が進行していたようなのです。
2002年から2020年の経済産業省生産動態統計年報に掲載されている文房具カテゴリーの数値を抜粋してグラフにしてみました。
水性ボールペン:生産量が上がっていることが一概にフリクションの影響だけとはいえませんが、油性ボールペンや鉛筆などその他カテゴリーが軒並み減少しているにもかかわらず唯一上昇が見られました。
修正テープ:水性ボールペン以外は減少していますが、2006年から2010年までの短期間に70%も減少したカテゴリーは修正テープのみです。
昔、某文具問屋営業担当さんの「フリクションの影響もあって、最近修正テープいまいちで〜」などという雑談を話半分に聞いていましたが、このグラフを見ているとあながち妄想でもないように思えるのです。
パラダイムシフト商品
こんなドラマチックに常識を替えてしまう商品を個人的に「パラダイムシフト商品」と呼んでおります。
正直、滅多に現れません。
ところが、2006〜2010年頃日本筆記具業界は変革期にあり、旧来の定番が新たな価値観を持つ商品へ置き換わっていきました。ジェットストリーム、クルトガ、シャーボX、マイルドライナーの登場です。 滅多に現れないはずのパラダイムシフト商品が次々に誕生したのです。
真夏のような熱っぽい時代でした。
今や必需品ともいえるフリクションは、この「夏の時代」の象徴でもあったと思うのです。