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デザイナーのメンタルを救った文房具

前回の榎本みょうが氏インタビューの終盤、みょうが氏より「今回は文房具のメディアだと聞いたので、こんなものを用意したんだけど...」と、卓上の道具箱を見せてくれた。そこには彼の心の拠り所になった、文房具コレクションが収められていた。

アナログ時代のデザイナーの道具

前回のインタビュー「クリエイティブの果てにたどり着いたハンドバック作り」でも語られているが、みょうが氏は美大卒業後に30年以上、グラフィックデザイナーとして従事してきた。その間にデザイナーの制作環境は大きく変化した。

使わなくなったデザイン道具」でも書いたが、かつてデザイナーの机の上には、多くのデザイン道具や文房具が揃えられ、それらの道具はデザイン会社に出入りする画材屋にデザイナーが直接注文していた。多くの道具を使って手作業で制作を行うため、鉛筆一本、カッターナイフの種類やメーカーまでデザイナーがこだわって、各自で気に入った道具を使っていた。

しかし、時代は変わり現在のデザイン制作におけるメインの道具は、パーソナルコンピュータである。かつてデザイナーの卓上にあった多くの道具は、すべてソフトウェアの中に格納され、手にとって使うデザイン道具や文房具は、ボールペンやマーカー程度になってしまっており、おそらく多くのデザイン会社では、そうした文房具は社内の「総務担当」がまとめて仕入れているのが一般的だろう。

そして多くの場合、総務担当はコストを考えて、安価なボールペンをまとめて購入する。デザイナーが事務用品としてのボールペンではなく、パイロットの「HI-TEC」シリーズの03と05が欲しいと言っても、稟議書が必要だったりするのだ。

学生時代からパソコンを使ってデザイン作業を学んできた若いデザイナーとは違って、過去の細かいスキルが生かせない古参のデザイナーには、メイン道具の切り替えに着いていくのが大変である。みょうが氏も、これまで印刷物を前提に作業していたグラフィックデザインから、マルチメディアデザインやウェブデザインを担当するようになった時、大きく戸惑ったという。

「正直、メンタルがやられそうになっていたんです」、と彼は昔を思い出して呟いた。そして職場で心が弱りかけていた時に救ってくれたのが「お気に入りの文房具」を格納した卓上の三段ボックスだったのである。

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