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湯島天満宮「文具至宝碑」を訪ねて

学問の神様として知られる藤原道真公が祀られた湯島天満宮。受験シーズンには多くの学生たちが合格祈願に訪う権現造りのお社近くに、文具の聖地があるのをご存じですか?

文房四宝といえば、筆・墨・硯・紙のこと。MONO SWITCH読者の皆さんならご承知のことと思いますが、古来中国より海を渡って伝播したこれらの道具は、読み書きをはじめとする日本の教育に大きな影響を与え、文化や学術向上に寄与してきました。そんな文具の功績を讃えるために建立されたのが「文具至宝碑」です。

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平成元年に立てられた石碑が佇むロケーションは東京・文京区。通称・湯島天神の名でも崇敬を集める湯島天満宮の境内にあると聞いて、さっそくやってきました。

文人墨客が愛した湯島へ

最寄駅は、東京メトロ千代田線の「湯島駅」。JR「御徒町駅」や都営大江戸線の「本郷三丁目駅」からも容易にアプローチできますが、湯島駅からなら徒歩2分ほどで辿り着くことが可能です。

写真は湯島駅3番出口を出て左手にある湯島天神下の交差点。ここから春日通りに左折すればほどなくして山門が見えてきますが、こちらの入口は「夫婦坂」と呼ばれる裏参道です。

できれば、さらに歩みを進めてぐるりと「大鳥居」まで回り込み、表参道から参拝するのがおすすめです。

まずは本殿に参拝。二礼二拍手で取材に伺った旨をご挨拶しながら、この記事のアクセス数が伸びますようにとこっそり祈願してきました。

折しもこの日は5月末に行われる例大祭の準備でしょうか。あちこちに足場が組まれ、奉納提灯を飾り付ける職人さんや庭師さんが忙しそうに往来されている最中。作業の邪魔にならないよう、目当ての文具至宝碑を探しに境内を散策してみます。

意外にも見どころが豊富な湯島の天神さま

本殿左手前には、湯島天満宮に来た際は必ず立ち寄っておきたい「撫で牛」がありました。天之手力雄命(あめのたじからおのみこと)とともに、主祭神の一柱として祀られている藤原道真公は、生まれも没年も丑年です。生前「牛の背に亡骸を乗せ、牛のおもむく場所にとどめよ」と遺言を残したほどで、牛はとてもゆかりの深い動物とされています。頭をよくしたい人は頭を、足をよくしたい人は足を撫でると御利益を授かると伝わっています。

また、本殿を正面に向いて右手へ逸れると「男坂」と「女坂」があります(写真は男坂)。

急な石段が男坂で、緩やかな石段は女坂。これは湯島天満宮に限ったことではなく、日本の神社ではわりと見られる造りですね。元来は、傾斜のきつい坂を修行の一環として登っていたそうですが、のちに女性の参拝客でも歩けるようにと、なだらかな坂道を設けたのが始まりだとか。ちなみに江戸時代『御府内備考』という書物には、本郷界隈から上野広小路に抜ける近道だったとも記されています。

そして、その男坂の上がり口についに見つけました!文具至宝碑を!!

高さにして3〜4メートルはあるでしょうか。知らないとうっかり見過ごしてしまいそうなほど、景観に溶け込んだ佇まいなのですが、立ち止まって見上げれば、かなり立派な石碑だとわかります。上部には「文具至宝碑」と刻まれ、その下に由来が書かれています。

中国より渡来した紙筆墨硯は文房四宝と称せられ読み書き算盤の寺子屋時代から明治の学制発布により高い文化を育てる文具として大きく貢献をしてきた
今や文房具はOA器機にいたる迄その範疇を広げ四宝から至宝に至って戦後の日本国を世界の大国に復興せしめた教育の原動力となった
十一月三日(文化の日)を文具の日として定め平成元年を迎えるに当たり先人に報恩感謝の念を捧げつつ、ここ学問の神さま湯島天神の境内に文具至宝碑を建立する

平成元年11月3日   文具資料館

ちなみに11月3日は「文具の日」。「え? 文化の日じゃないの?」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、「文具と文化は歴史的に同じ意味」ということから、昭和62年(1987年)に東京都文具事務用品商業組合等がこの日を文具の日に制定したといわれています。

ほかにも、ここ湯島を舞台にした『婦系図(おんなけいず)』の作者・泉鏡花を顕彰して立てられた「筆塚」(写真)や、包丁の恩恵に感謝する「包丁塚」、人間国宝・一龍斎貞水氏が建立した「講談高座発祥の地 碑」など、興味深い石碑があちこちに点在していました。とりわけ、奇縁氷人石(きえんひょうじんせき)はかなりユニークです。江戸時代、子どもが迷子になった際にここに貼り紙をして探したという、いわゆる迷子の伝言板のような役割を果たしていたのだとか。往時は今以上に、この境内が多くの人で賑わっていたのかもしれません。

旅の終わりは、授与所に立ち寄って御朱印を

せっかくなので、奉拝させていただいた証として御朱印をいただいてまいりました。この季節にふさわしい菖蒲のイラストが入った期間限定のデザインです。

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また、湯島の天神さまで人気なのは学業成就の鉛筆。1ダース700円の授与品で、あくまでもお守りとして提供されています。

かたちがオーソドックスな六角形ではなく四角形なのは、「五を欠く=合格」という縁起担ぎからだとか。受験を控えている学生さんや、学業に励んでいる子どもたちへのお土産にぴったりですね。

 

いかがでしたか? 文具にちなむ石碑を目的にそぞろ歩いた湯島天満宮へのワンデイトリップ。日頃デスクにかじりついて仕事をしている身としては、貴重な癒しのひとときとなりました。

世の中は相変わらずのコロナ禍で、ちょっとした外出も躊躇われてしまうご時世ですが、たまには散策に出かけてみるのも一興です。時間帯を選んで密を避け、マスクを着用するなど、感染症対策をしっかりと行ったうえでお出かけくださいね。