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不自由だからこそ豊かな表現ができる「竹ペン」の魅力

10月「アトリエ訪問」でご紹介した画家の新井淳夫さんが、作品を描く際に愛用していたのが「竹ペン」でした。それがどうにも気になって、ふたたび取材へ! 氏が講師を務める絵画教室に伺い、その魅力をレポートしてきました。

前回の記事はこちら→「フランスの最も美しい村」が具現化されるアトリエへ

新井さんは、ライフワークとなる「フランスの最も美しい村」の創作と並行して、週3〜4回程度、各地のスクールや絵画教室で「竹ペンで描く墨絵」を教えています。

今回お邪魔したのは、日本で初のカルチャーセンターとして長い歴史と実績のある「産経学園」の新百合ヶ丘校。この講座には、少人数ながら新井さんの作風に魅せられた生徒さんたちが集い、毎回さまざまなモチーフをテーマにした墨絵に取り組んでいます。

一発勝負の妙味

その日のお題は柘榴(ざくろ)。新井さん自らが吟味して選んできたものが生徒さんに配られます。

深いオレンジ色に色づいた実を割ると、果皮の内部に宝石のような紅い実がぎっしり! 

画材用紙は書画に用いられる画仙紙が使われます。とりわけ滲みが少なく、かすれ具合の味わい深さを引き出せる“純楮(こうぞ)紙”が好適で、サイズはF8号(455×379mm)以上がのびのびと描けるそうです。

まずは竹ペンでスケッチ。「とにかくよく観ること。果実の形はそれぞれ違うし、中の実が一粒一粒不揃いなところにも注目してください」と、新井さんのアドバイスが飛びます。

墨絵は一発勝負の世界。描き直しが効かないから一生懸命「観る」ことが重要です。

よく生徒さんから「鉛筆で下描きをしてもいいですか?」と尋ねられるそうですが、鉛筆や消しゴムを使って直しながら描くと、無意識のうちに上手に描こうとして、頭の中でパターン化したイメージの形になってしまうのだとか。「それは誰もが知っている形であり、発見のない形。だから、面白みのない絵になってしまう」と新井さん。

講義に参加される生徒さんには、まずはその点を説き、絵に対する固定観念や思い込みを取り払っていくことに多くの時間を費やすのだと語ります。

輪郭が仕上がったら、次は水彩絵の具による彩色です。ここでも、淡い色から徐々に濃い色を重ねていくなど、いくつかの留意点が伝えられ、新井さんご自身も作品を描きながら生徒さんからの質問に答えたり、助言をしたりしていきます。

その様子を眺めていてふと気づいたのは、墨で描いた線に、水をたっぷり含んだ彩色筆を走らせても、意外と滲みが少ないことでした。

「そうそう、墨は一度紙に染み込んでしまえば案外しっかりと定着するもんなんですよ。もちろん、墨の膠が乾いていなくて水分を含んだ状態で水彩絵の具と交わると滲みが生じます。墨の線に沿って色を入れれば線そのものは堅くなるし、やんわりボカしたければあえて滲ませる。そこに面白さがあるんです」

竹ペンの特性とは?

そもそも竹ペンは、竹の先を削って尖らせただけのシンプルなつくり。ちょうど万年筆のペン先のように、インクとなる墨汁を留めておく溝が切られていますが、保水力がほとんどないため、墨が紙に吸われてすぐにカスれてしまいます。逆に言えば、紙に筆先を乗せた際、思いのほか大量の墨が落ちて予想以上の太い線になってしまうことも……。

細く描きたい時はカッターで筆先を削ったり、角度を変えて強弱を付けたり、描き手の工夫や経験、テクニックが試されます。

「墨汁は、そのまま使うと粘りが強く紙の上を滑らせにくいので加水します。墨1に対して水0.7くらいの割合かな。そして、作品を描く時に使う竹ペンは2種類程度。細い線を描くための1本と、わざと筆先を磨耗させたまま丸めてある1本を使い分けています」

なかなか思い通りの線を描けない難しさが、むしろ「竹ペンの持ち味」だと新井さん。

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