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抹茶碗の選び方

本来、点茶はもっと身近なもの。本格的に茶道を学ぶのならお教室に通うのが近道ですが、ご自宅でカジュアルにお茶を点てても大丈夫。まずはお気に入りの抹茶碗を探しに出かけてみませんか?

お茶の点て方のみならず、礼儀作法や侘び寂びの精神性をも修得できる茶道は、大人の嗜みにぴったりな和のお稽古事。

でも、格式張らず、気軽にお茶を味わいたい時は、抹茶(茶葉の粉)、茶筅、茶碗など、必要最低限の道具を揃えておくだけで、いつでも点てることができます。ひとまず今回は、お茶をいただく際に欠かせない抹茶碗の選び方をご紹介しましょう。

お茶碗は、茶会を主催する亭主が客人をもてなすために最も気を配り、その時々で季節を感じさせたり、こだわりや思いやりを込めながら選ぶもの。深淵な茶の湯の世界においては、とても重要な役割を果たす茶道具に数えられます。

抹茶碗には、「唐物」(一般的に中国大陸の流れをくむ茶碗)であれば、天目、青磁、白磁などがあり、「高麗物」(朝鮮半島に端を発する素朴な茶碗)であれば、井戸、井戸脇、刷毛目、伊羅保など、実に多種多様な種類があります。

また、古くから「一楽二萩三唐津」などと格付けされ、茶人たちの間で、京都の楽焼、山口の萩焼、佐賀の唐津焼が好んで使われてきたように、「和物」(国産茶碗)にも魅力的なお茶碗が数多く存在します。志野焼、織部焼、瀬戸焼、常滑焼など、お馴染みの窯は、皆さんも聞いたことがありますよね。

でも、小難しいことはとりあえず置いといて……。初心者が押さえておきたい抹茶碗選びのポイントは、何よりも「点てやすさ」と「扱いやすさ」です。

選ぶ時のチェックポイント1 「かたちと安定感」

陶器か磁器か、あるいは産地ならではの風合いの差異などによって、抹茶碗にはさまざまなかたちや表情があります。もちろん、第一印象で選ぶのもよし。長く愛せる道具を探すときは、手に取った際のインスピレーションが大切です。

ところが、いざお茶を点てようとしたら、器との相性が悪くて、意外とうまくいかないことも。抹茶碗選びにはやはりある程度の見極めが必要でしょう。

例えば、若干小ぶりで口が狭い筒型の茶碗だと、茶筅を使って攪拌する際、その動きが制限されてしまい、しっかり攪拌できないことがあります。場合によっては抹茶の粉がダマになって、湯と上手に混ざり合わない羽目に。

また、見込み(器の内側の中ほどから底にかけての部分)や、茶だまり(器の内底部)が極端に狭いモノも同様に茶筅が振りにくく、ビギナーには不向きとされています。

赤い円の部分が「見込み」。ここがゆったりしているものがオススメです

 

さらに、扱いやすさという点では、器の大きさや重さ、安定感も重要ですね。片手で持ちきれないサイズだと何かと不便。ある程度の重量があったほうがお茶を混ぜる時に安定しますが、これも片手で持ち上げてみて、ちょうどよい重さにとどめたいところ。

また、抹茶碗には高台(こうだい)と呼ばれる足が取り付けられていて、これが小さいと器自体が不安定になり、ちょっとした力をかけただけでも転がってしまいます。

ちなみに写真は私物の天目茶碗です。俗に油滴と呼ばれるしずく模様がキラキラと光って、ついつい一目惚れで手に入れちゃいました。実際にお茶を点てると、黒く艶めくボディに鮮やかな抹茶の緑色が映え、綺麗な泡が立つと気分がアガります(笑)。

といっても、さほど高価なモノではないので練習用にぴったり。手のひらにすっぽり収まるサイズ感もお気入りの要素です。

ただし、天目茶碗の特徴として高台が低く小さいのが難点です。茶筅を回す時に、しっかり左手で支えていないとうっかり倒してしまいそうになります。

選ぶ時のチェックポイント2 「素材感」

素材や風合いも、お茶を点てることに慣れていない人には案外気づきにくいポイントかもしれません。

極端にザラザラ、ボコボコしているモノは茶筅が引っかかりやすく攪拌が不十分になります。例を挙げるとれば、釉薬をかけずに素焼きのような風合いを持つ備前焼などがそれ。

地味ながら、土そのものの温もりが伝わってくる素晴らしい焼物なのですが、ビギナーにはややハードルが高い上級者向き。かなり手ごわい相手かもしれません。

逆にツルツルしている磁器の抹茶碗も、茶筅が滑りすぎてなかなか綺麗な泡が立ってきません。爽やかな青磁や白磁の器で、細やかな泡をふっくらと立てている人がいたら、その方はかなりの手練れとみていいでしょう。

つまり、私たち初心者にとっては程よくテクスチャーが感じられるモノがベター、ということになりますね。

また、練習用や自分使いの器を選ぶのなら、洗う時や仕舞う時に割ってしまわないよう、できるだけ頑丈そうなモノをセレクトしましょう。とはいえ、硬質で薄い素材は要注意。熱伝導に優れているため、手に持った時に「熱い!」と感じてしまいます(この辺は、普通の湯呑みの選び方と一緒かもしれませんね)。

筆者の一番のお気に入りは、写真の「伊羅保」茶碗です。高麗物に分類され、砂まじりの“いらいら(ザラザラ)”とした手触りがキャラクター。年代物の古伊羅保などでは、あえて小石を混ぜ「石はぜ」を生じさせたりもしますが、このお茶碗は実用性を高めた廉価品なので凹凸少なめ。口が大きく開いているので、かなり点てやすいです。

選ぶ時のチェックポイント3 「季節感を大切に」

冒頭、抹茶碗は「客人をもてなす重要な茶道具」というお話をしました。もし、友人を招いてお茶を振る舞う機会があるとしたら、季節を感じさせる器を選んでみるのも一興です。

夏であれば、涼しげな印象を与えてくれる薄手で口の大きく開いた平茶碗や夏茶碗、冬ならば保温性の高い厚手のぽってりした冬茶碗を用いるなど、ちょっとしたプレゼンテーションが「おもてなし」につながるんです。

季節感をよりダイレクトに演出するなら、京焼の仁清写茶碗(仁清は江戸前期の陶工)など、色鮮やかな絵柄が描かれた抹茶碗をおすすめします。

「夏はいかにも涼しきよう、冬はいかにも暖かなるように」とは、かの千利休が遺した茶の極意。四季折々の草花が描かれている抹茶碗は、たいてい次の季節のモチーフをチョイスするのがセオリーとなっています。

例えば、まだまだ肌寒い時期であれば、あえて春の暖かさを感じさせる梅や桜の絵柄を選び、盛夏には暑さ和らぐ秋の桔梗やススキの絵柄を選ぶなど、それとなく季節を先取りする心配りをひそませてはいかがでしょう。

もっとも、格式の高い茶会であっても、庭先に舞い散る桜の花を愛でながら桜柄のお茶碗を用いて季節感をさらに強調させるなど、「季節の先取り」にあまり固執しないこともあるようです。

いわんや、自分だけ、あるいは家族や友人と楽しむプライベートな場なら、なおさら自由なスタイルでOK。五感を集中させ、静かにゆったりとお茶を味わう贅沢を楽しんでください。

 

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