
大胆でモダンなんだけど、かわいらしい。
初めて因州中井窯の器を知ったのは、4年前の冬のこと。
某旅雑誌の取材で鳥取を訪れたものの、その日はなんと年に一度あるかないかの大雪に見舞われ、取材スタッフ一同やることもなく途方に暮れていました。
筆者はガイドブックで見かけた、黒と緑(なんともいえない翡翠を想わせるような緑)のバイカラーの器がなんとなく気になっていて、それを扱っているという鳥取市内の「鳥取たくみ工芸店」に行ってみることを提案してみました。幸い車のタイヤは雪道仕様だったし、なにより撮影ができなくて皆時間を持てあましていたので、すぐさま「鳥取たくみ工芸店」へ。
すると、あるではないですか。黒と緑に染め分けられたちょうどいいサイズのお皿が……。白と緑のバージョンもあったり、緑・黒・白の3色パターンもあったり、お皿だけじゃなくて茶碗や小鉢なんかも。
大胆でモダンでスタイリッシュなんだけど、どこか温かみがあってかわいらしい。ゴリゴリの「ザ・陶芸」って感じじゃないのがいい。
そう、かわいい民芸好きオジサンの心は激しく揺さぶられたのです。
ひとしきり迷った挙句(他の取材スタッフは完全に飽きていた)、お店の方に気に入った「染め分け皿」の値段をたずねると、「スミマセン。こちらはすべて非売品なんです」との答え。聞けば、その緑と黒と白とで塗り分けられた器たちは地元鳥取の因州中井窯の作品で、とにかく大人気で予約待ち状態なんだとか。さらに聞くと、この因州中井窯の窯元は鳥取市内から車で1時間くらいの場所らしい。
「じゃあ、行ってみますか?」のカメラマン氏の一声で、我々は因州中井窯の窯元へ向かうことに。

「日本民芸の父」柳宗悦も絶賛!
その道中、スマホでいろいろ調べてみると、因州中井窯は鳥取を代表する「民芸好き・陶芸好き」には知られた窯元であることがわかりました。
「用の美」を提唱し、「日本民芸の父」といわれる柳宗悦にも称賛されたらしい。
その柳宗悦の流れを汲む鳥取の民芸プロデューサー(本業は医者)、吉田璋也によって見出された窯元らしい。
(ちなみに先に訪れた「鳥取たくみ工芸店」は吉田璋也が立ち上げた日本初の民芸店)
さらには柳宗悦の息子でプロダクトデザイナーである柳宗理氏とコラボしたシリーズも出しているらしい。
もうとにかく、人気の窯元ってことです。
たどり着いた因州中井窯には工房の隣にギャラリー&ショップが併設されていて、ここではちゃんと因州中井窯の作品が購入できます。
残念ながらお目当ての「染め分け皿」は予約待ちだったのですが、鳥取の旅の思い出に、緑と黒で染め分けられたゴハン茶碗をゲットしました。

毎日使ってこそわかる「用の美」!
その2年後、なんとふたたび鳥取を訪れることに。今度は鳥取でとにかく蟹を食べまくるという家族旅行だったのですが、蟹宿で本当に蟹を食べまくったせいで、翌日は家族揃ってぐったりとしてしまい時間をもて余すことになりました(天気も悪かった)。
じゃあ、ということで70歳になる母親を連れて「鳥取たくみ工芸店」に行ってみましたが、やはり因州中井窯の作品はすべて予約待ち。
だったら、ということで、また車で1時間かけて因州中井窯の窯元に行ってみましたが、やはりお目当ての「染め分け皿」は予約待ち。
その代わり母親がやる気を出して、かわいい民芸好きオジサン(息子)のために、緑や黒や白で染め分けられたコーヒーカップやら湯呑やらを買ってくれました。
そんなわけで現在、我が家には因州中井窯の器が7、8点あります。(残念ながら「染め分け皿」はありません……)
柳宗悦が唱えた「用の美」とは、贅沢で高価なものだけに美があるのではなく、実用品のなかにこそ健康的な真の美が宿る、というもの。
真の美が宿るかどうかはわかりませんが、我が家の因州中井窯の器たちは毎日フツーに(食洗器で洗われたりしながら)使われています。そして筆者は、そんなタフな器たちを気に入っています。いつかは因州中井窯の「染め分け皿」を手に入れて、これも飾ったりするのではなく、毎日フツーに使ってみたいものです。
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