鉛筆をなめるって、どういうこと?
太宰治「人間失格」に「手帖の鉛筆をなめて…」という一文がある。
昔はなじみのあったこんなシーンも、今では見かけなくなったものだ。だが、もしかしたら、おじいちゃんが鉛筆で字を書くときペロっとなめているのを見たことがある、なんていう人もいるかもしれない。
いやいや、そんなシーン見たことがない。そういう若者もいるだろう。
どちらにしても不思議ではないか。わざわざ「鉛筆をなめる」。それは一体、なぜなのだろう?
キーワードで記事を検索
閉じる昔の映画や漫画などの描写で、何か書く前に鉛筆の先をなめるのを見たことはないだろうか。よく考えるとあの行動って、一体どんな意味があるのだろうか。その謎を探ってみた。
太宰治「人間失格」に「手帖の鉛筆をなめて…」という一文がある。
昔はなじみのあったこんなシーンも、今では見かけなくなったものだ。だが、もしかしたら、おじいちゃんが鉛筆で字を書くときペロっとなめているのを見たことがある、なんていう人もいるかもしれない。
いやいや、そんなシーン見たことがない。そういう若者もいるだろう。
どちらにしても不思議ではないか。わざわざ「鉛筆をなめる」。それは一体、なぜなのだろう?
それは、まだ鉛筆の芯の質が良くなかった時代に遡る。
現在の鉛筆にはそもそも、紙に書くときに滑りをよくするために油分の入った潤滑剤が入っている。この潤滑油のおかげで、すらすらと紙に書けるというわけだ。
だが、昔の鉛筆は粗悪なものが多く滑りが悪かったため、ずっと書いているとだんだん文字が薄くなり、字がかすれてしまうことがよくあったそう。そんな時、鉛筆をなめて芯を湿らせると、書き味がしっとりとして濃く書けることから、書き味の悪さを解消してくれる一番手軽な方法として、芯をなめてから書いていたのだ。
なるほど、おじいちゃんならぬ「おばあちゃんの知恵袋」的なアイデア技だったのか!
しかし、現代の鉛筆は質も良く書きやすいので、芯をなめてもあまり意味はない。今でもおじいちゃんが字を書く前にペロッとなめるのは、昔の習慣が残っているからだろう。
鉛筆の芯をなめる理由は分かったが、鉛筆の芯をなめるのは体に良くないのでは?そんな素朴な疑問を抱いてしまった。
そこで、次は鉛筆の芯をなめると体に害を与えるのか、について調べてみた。
文房具でおなじみのトンボの公式HPには以下の記載がある。
鉛筆は黒鉛(炭の仲間)と粘土を焼き固めて作られております。鉛筆のJIS規格であるJIS6006で定められた重金属に対する安全基準を満たしており、重金属等の有害物質が基準値内であることを確認しております。これまで健康被害の報告等は受けておりませんが、食品として製造しておりませんので口には入れないようにしてください。
書く前にペロッと芯をなめても人体に大きな害はなさそうだ。だが、だからと言ってあえて口にすることは避けた方がよいだろう。
前述のとおり、その昔、鉛筆の品質が悪く色濃く書けなかったときに、鉛筆の芯をなめると一時的に濃く書けるようになったことを踏まえて、「鉛筆をなめる」という言葉が生まれたといわれている。
この「鉛筆をなめる」という言葉、今なお使われている慣用句だが、ご存知だろうか。
1)丁寧に・慎重に、考えながら苦労して書くこと
文字を丁寧に濃く書きたいときに芯をなめながらゆっくり書いたことから、苦労して、細部にわたり緻密に、という意味を持つ。
2)数字を改ざんし調整すること
昔は事務処理もパソコンではなく鉛筆で書いていたもの。そのため、事務処理を行う担当は、膨大な数字や文字をまとめるのに鉛筆の先をなめて作業していた。ということから「書類を記入する」にという意味に転じ、さらに「書類上の数字を操作する」「記録を改ざんする」という意味にも派生していった。
「鉛筆をなめる」というリアルなシーンも最近では見かけなくなってきているが、言葉もまた若い世代にとって、ほとんど使わない言い回しなのではないだろうか。
それぞれ全く違う意味を持っていて、前後の文面で解釈が変わってくるので、どちらの意味も覚えておくとよいだろう。
【関連記事】なぜ、小学校では鉛筆が筆記具として指定されるのか?