◆ ある素朴な疑問から始まった
文房具屋で働いていると、そんな声をたまに耳にします。
かつて私も、Q&Aサイトで見かけたこの問いに答えられず、歯がゆい思いをしたことがありました。
なぜ、いまでも学校では「鉛筆」が指定されるのでしょうか?
その答えを探すうちに、「鉛筆の役割」は、思った以上に奥深いものだと気づきました。
◆ 鉛筆の前に「紙」があった
「鉛筆の歴史」を調べていくと、実はその前に「紙の歴史」が立ちはだかります。
古代日本では、木簡や和紙が使われており、読み書き文化の発展には、日本の自然環境──紙の原料となる植物の豊富さが大きく関係していました。
明治期に入ると、和紙から洋紙へ、筆から鉛筆へと道具は変化。
ノートと鉛筆は、「近代的な学び」を支えるベストコンビとして定着していきました。
◆ 教育現場に鉛筆が根付いたワケ
鉛筆は当初、逓信省向けの高級品「局用鉛筆」として使われていました。
しかし戦後、鉛筆メーカーが抱えた大量の在庫を子どもたちの学習用に転用したことで、教育現場での普及が一気に進んだといわれています。
◆ 鉛筆が小学生にぴったりな理由
文部科学省の指導要領でも、鉛筆の使用が推奨されています。
理由はこうです:
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筆圧が安定しない子どもでも扱いやすい
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「はね・とめ・はらい」が表現しやすい
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間違えてもすぐに消せる=練習に最適
シャーペンは芯が折れやすく、分解・いたずらの対象になりがち。
その点、鉛筆は安定感があり、手元の管理や準備の習慣も身につきやすいのです。
◆ 鉛筆は“準備”と“気持ち”を整える道具でもある
私自身、鉛筆を削り忘れて授業に臨み、丸まった芯で落ち込んだ経験があります。
でも、しっかり削って臨んだ日は、不思議と前向きな気持ちに。
「鉛筆を使う」という行為には、文字を書く以上の学び──
「整える」「集中する」「リセットする」ための小さな儀式があるのかもしれません。
◆ 最後にひとこと、シャープペン派のキミへ
もし、今この文章を読んでいる小学生がいたら、ちょっとだけ考えてみてください。
鉛筆を削る時間は、頭と心の準備運動です。
尖った芯を手にしたとき、きっとあなたの集中力も尖っていきます。
いつか、シャープペンに切り替える日が来るかもしれません。
でもその前に、「鉛筆」としっかり付き合ってみてはいかがでしょうか?