NIPPONIA 美濃商家町
美濃の街にはお茶室や複数の蔵がある立派なお屋敷が古民家として残っており、Washi-naryはその蔵をリノベーションして作られています。他にも古民家を再利用した建物が存在し、その代表がWashi-naryが入っている古民家ホテル「NIPPONIA 美濃商家町」です。実はこのホテル事業にも辻さんは関わっているそうです。
外観は立派なお屋敷、その室内は美濃和紙を使った照明器具やたくさんの木材に囲まれた心安らぐ空間となっています。
こちらではかつて金庫として利用されていた蔵やお屋敷の茶室が併設されたお部屋などに泊まることができるそうです。
KDM人:金庫がホテル!?見てみたいです!
好奇心のままに要望をぶつけると、なんと特別に案内してくださいました。
珍しいホテルに泊まることを体験するだけでなく、美濃和紙を見て知って体験してもらいたいと辻さんは言います。
辻氏:ホテル事業に携わっているのは和紙と関係ない話じゃないんです。美濃に来てもらえさえすれば、「素晴らしい街ですね」「和紙で栄えました」、「素晴らしいお屋敷ですね」「かつての和紙の原料問屋さんのお屋敷なんです」と美濃和紙に繋がります。ホテルの部屋の中には、美濃和紙を使った様々な装飾を楽しむことができます。和紙を売る仕事とホテル事業は違うものに見えますが、両方とも和紙を伝えているんです。
"異日常"を感じる体験。
美濃市には世界遺産が3つあります。
- 世界無形文化遺産 本美濃紙
- 世界農業遺産 清流長良川の鮎
- 世界かんがい施設遺産 曽代用水
さらに日本最古の近代吊り橋「美濃橋」もあります。
辻氏:古いのか新しいのかどっちなんだって感じですけど、鉄骨の吊り橋として日本最古なんです。
そんな見所満載の美濃ですが、辻さんの考える美濃旅の良さはもっと違うところにあります。
辻氏:非日常ではなく、"異"日常を楽しんでもらいたいです。テーマパークのような娯楽のために作られた何かよりも、美濃の当たり前の日常や美濃クサさを感じてもらいたい。大事なのは普通に愛嬌が良かったり、接客が好きだったり、地元が好きだったり、ありのままの"美濃愛"をサービスとして表現すればいいんです。
KDM人:みんながリッツカールトンになるわけじゃないってことですね。
辻氏:そうです。高級ホテルになっちゃうとお客様の求める価値観と我々が提供できる価値観が合わない可能性があるんですよ。例えば、古民家なので段差があるとか、ルームサービスが欲しいとか。
KDM人:お客さんはちょっと不便に感じちゃうんですね。
辻氏:僕としてはホテルに招かれているというよりも一晩だけ美濃の住民を仮体験してもらいたいんです。その為に、夕食はホテルで提供せずに町の中にある飲食店をご案内しており、町の飲食店さんとの交流も楽しんでいただきたいと思っています。また、古民家での生活を体験するっていうアクティビティでもあります。例えば、玄関の扉が非常に低い箇所があったり、雨の日には和傘を使ってもらったり、常にお客様には「いい経験されましたね」って(笑)。
KDM人:古民家に住むってそういうことですもんね、現代のお家だとありえない作りになっている所もありますから。
辻氏:そうそう。「なかなかないですよね!」なんて。
確かに、美濃が栄えた当時の雰囲気が残る「NIPPONIA美濃商家町」のホテルの中は快適で安らぐ空間でありながら、天井がやや低かったり、段差が少し多かったり、古民家ならではの"懐かしい不便さ"残っている部分もありました。そんな不便さも"異"日常の貴重な体験です。
ツアーの道中で、長良川支流の中でも清流として知られる「板取川」へ。そこで見た板取川は、透明度が高く水が青く見えるまさに清流でした。
KDM人:すごい!青い!こんなに綺麗水底が見えますね。生き物もたくさんいそう。
辻氏:オオサンショウウオとかいますよ。ちなみに、Washi-naryの棚上に施してある板取川の青色は、この青色を真似たものです。
KDM人:本当だ、さっきWashi-naryさんで見た色と同じですね。こんなに綺麗な川を見たのは人生で初めてです。
辻氏:板取川周辺に住む人たちにとって、川が綺麗なのは当たり前なんです。僕が板取川が綺麗だっていうことに気づいたのは大学で上京したとき。夏の暑い日に友達に川で泳ぎたいね、と話すと「川!?ありえない!」って反応が返ってきたんです。「どんな川なの?」「鮎が泳いでるけど」「鮎とかちょー高級魚じゃん!」って驚かれて。
KDM人:日常が違うってそういうことですね、多摩川では泳がないですもんね。
辻氏:あそこで泳ぐのはタマちゃんくらいですね(笑)。
和紙を梳く際には水を大量に使うので出来上がる和紙の品質は水に左右されます。美濃和紙はこの透き通った良質な板取川の水に支えられているのです。
和紙の直営店「Washi-nary」
Washi-naryの店内奥には職人さん達の写真と和紙が並んでおり、木製棚の引き出しには様々な種類の和紙がしまってあります。和紙はまるでお洋服のようです。
辻さんは従来の和紙の売り方とは違う方法を模索していました。
辻氏:ここは丸重製紙の直営のお店になっています。丸重製紙で作っている和紙に加え、地元の手漉き和紙職人さんたちの手漉き和紙も販売しています。うちの和紙はもちろん丸重製紙っていう名前を出していますし、手漉き和紙は誰が漉いたか職人の顔までわかるようにしてあります。世の中にある和紙のお店っていうのはほとんどこういう売り方はしていません。美濃和紙の〇〇紙ですっていうカテゴリーまでは表記するんですけど。
KDM人:他の和紙の販売店さんは職人さんの名前をそこまで重視されてないってことなんですかね?
辻氏:重視していないというよりは、おそらく直接メーカーや職人さんのところへ行かれると困るからだと思います。
KDM人:なるほど、メーカーとお客様の中間に入ってお客様を止めておきたいということなんですね。
辻氏:Washi-naryっていうお店の名前は、僕がワインが好きだっていうのもあるんですけど。高級なワインとは、どういうワインか分かりますか。はっきり言うと300円のワインも300万円のワインも味がわからないと変わりません。じゃあ何が違うのか、それは情報量です。高いワインは、年代、畑、誰が作ったのか、製造年がどういう年だったのか、その年のワインはどのような評価だったのか、ありとあらゆる情報が開示されています。和紙も同じで、和紙の価値をあげるために情報を公開しています。
その言葉通り、店内に置いてある全ての和紙に対して、商品名、サイズ、厚み、価格の他に「工房・職人」と「原料」が記載されています。価値を上げて高く売ることだけが全てではなく、色々なものが存在することを踏まえた上で、自分がどのような基準で何を選択するか、というプロセスが大事だといいます。
Washi-naryの和紙ソムリエさんたちは、そのお手伝いをしてくれるプロフェッショナルです。自分が紙を使ってやりたいこと、表現したいものや作品など、頭に浮かぶイメージがある人は、ぜひWashin-naryに赴き、自分に合う和紙を探してみてください。
足を運んで感じて欲しい美濃の魅力
今回は美濃和紙ツアーの"美濃"という街の魅力についてほんの少しだけお話ししました。実はまだまだ伝えきれていない魅力や感じた驚き、発見があります。
「うだつの上がる街並み」で有名な美濃の街並みはもちろんのこと、町中を流れる長良川もとても綺麗で癒されます。川沿いには古い灯台があったり、趣のある神社もあったり。特別なアミューズメントパークや催しものがなくても、街を歩いて歴史に触れて地元の人とお話ししたり。KDM人は同じ岐阜県内に住んでいますが、それでも日常では経験できないことが体験できました。車でたった1〜2時間の地方に足を運んでみるのも悪くないです。
さて、私たちKDM人は「美濃和紙」についてもっと深く知るためにこのツアーに申し込んだのです。美濃和紙の歴史とお話し、作り方などについては次回お届けしますので、お楽しみに。