美濃和紙産業のむかしばなし
まずは原料のお話。
和紙の原料の一つであるコウゾ。今回はコウゾ畑にもお邪魔してきました。
冬に株を残して刈り取り、夏になればまた株から茂っていきます。今回は春先にお邪魔したので、コウゾの株を見ることができました。
かつての美濃地方では、夏は農業、冬は和紙産業というサイクルで生計を立てていました。冬は様々な条件で夏よりも和紙の製造に向いていたそうです。
・冬は自然の冷蔵庫(煮た後のコウゾが腐りにくい)
・紙抄きの際に大量に使用する”水”が綺麗
・天日干しする際に重要な紫外線が強いのでより漂白される、また天気が安定している
・気温が低いため、粘剤として使用する"とろろあおい"の粘度が保たれる
コウゾはクワ科の植物でどこでもすくすく育ちますが、「那須コウゾ」は特に繊維が細かく品質が良いため、美濃和紙の中でも「本美濃紙」は那須コウゾのみを原料とします。
ここで辻さんが昔の原料事情を少しお話を聞かせてくださいました。
原料を売り買いする人たちを原料問屋さんといいます。かつての美濃の原料問屋さんは美濃の多くの和紙職人に原料を供給するために大量の那須コウゾを買い付けしていました。どれくらい大量に買い付けたかというと、市場に出回る原料が少なくなり価格が高騰するほどだったのです。
結果的に美濃の和紙職人たちは原料を高く買わざるをえなかったという実態もあったようです。
和紙製造のあれこれ
次に和紙の機械抄きの現場におじゃましました。
和紙作りは主に下記の工程に分かれます。
- 原料を叩解(こうかい)する
- 原料を流しながら粘材を加える
- ゴミや原料の塊を取り除く
- 紙を抄く
- 乾燥させる
- 断裁する
和紙つくりの工程については丸重製紙さんのHP(こちら)に詳しく掲載されていますのでここでは割愛させていただきまして、MONOSWITCHでは取材したKDM人が「シラナカッター」と感動した3つをご紹介します。
1.工場で使用している原料について
丸重製紙さんの機械抄きでは主に木材パルプを原料としていて、木材パルプの中でも「広葉樹」と「針葉樹」の2種類が存在します。
針葉樹の木材パルプの方が繊維が長いため和紙に適しています。
ちなみに、手漉きの原料として昔から今でも使われているコウゾは、繊維がもっとも長いので和紙に使われているそうですよ。
丸重製紙さんでもこういった伝統的な原料も使用します。
2.紙の製造に使う薬品について
今回は紙を作る工程の中で使用する薬品のうち3つをご紹介します。
- 粘材
紙を美しく抄くために、和紙の原料を分散させたり沈殿を防いだりする役目の粘材が必要になります。手漉き職人さんたちは「とろろあおい」という植物を使用しています。驚くことに、この「とろろあおい」の粘りはコウゾだけに効くそうです。 - サイズ剤
ここでいうサイズはサイジングのことで、液体やインクがにじまないようにする操作のことを指します。つまりサイズ剤は"紙を滲みにくくする薬品"のことですね。サイズ剤の中でも紙の内側に効くものと表面に効くものがあり、それぞれの配合を調整することで市場の様々な用途の紙ができています。 - 湿潤紙力剤
ティッシュペーパーとトイレットペーパーの違いを生み出す薬剤です。湿潤紙力剤を入れると水に濡れても紙に力だある程度保たれるので、水に濡れた時に分散しなくなります。トイレットペーパーは水に流れるので、この湿潤紙力剤が入っていない紙です。
3.和紙メーカー辻さんが教える「紙の見方」
辻さん直伝、玄人の「紙の見方」
透かす
光に透かして見ると、和紙では特に原料の繊維の分散具合が分かります。原料が均等に分散していないと、地合いが悪いなあなんて思うそうです。
破る
破ることで繊維が見えたり紙の強度が分かります。繊維の長さで原料は何なのか推測します。
舐る(ねぶる)
味を確かめるわけじゃないようです。
滲んでいるか、染み込んでいるかどうかを確認し、その紙の滲みやすさを確認します。
文房具屋さんでいきなり紙を舐るのは、文房具屋の店員としては遠慮していただきたいので、ご自宅にある和紙や少し変わった紙を透かして破って舐ってみてはどうでしょうか。
「和紙」ってどんな紙?
そもそもKDM人たちは、文具専門店として「和紙とは何か」という疑問(和紙をめぐる冒険)を持っていました。その疑問を、ツアー案内人辻さんへぶつけてみます。
KDM人:「和紙」の定義や決まりはありますか?
辻氏:かつての日本ではただの紙だったので、もともと和紙という言葉は無かったんです。海外から紙が入ってきた時に、「和紙」「洋紙」という言葉が生まれたと思います。
KDM人:非常に相対的な話だったんですね、好奇心を感じる言葉です。
辻氏:原料の話をするとコウゾ、ミツマタ、ガンピを使って・・・という話ではあるんですけど、一方でパルプを使っているものは和紙といえるんですかと聞かれることもあります。原料での明確な線引きは正直無いんです。
KDM人:丸重製紙さんの機械漉き工場でもパルプなど様々な原料が置いてありましたね。
辻氏:僕の父は、「素材の特徴を生かして日本で作った紙が和紙だ」と言っていました。洋紙は原料をなるべく細かくして均一に作ります。そうすることで目のつまった紙になります。
KDM人:なるほど、洋紙の製法では素材の特徴はあまり関係ないんですね。
辻氏:僕は父の言葉に自分なりのアレンジを加えて、「和紙とは素材の個性を調和させて作ったもの」と定義します。日本で作るという定義を外したほうがいいと思うんです。例えば、日本のメーカーがタイの工場で作った紙を和紙として100円ショップなどで売っていますよね、あれって和紙じゃないのかっていうと、和紙ですよね。ジャパンのペーパーを和紙と定義すると邪道になっちゃいます。"和"はジャパンの和ではなくてメンタル、哲学的な"和"として捉える方がしっくりくるんです。
日常の生活に和紙を取り込む
KDM人は文房具店で「和紙ありますか」と求めてくる人々は和紙を何に使用しているのだろうか、という疑問を持ち続けています。ここだけの話、和紙を求めて文具店に来る人たちがどんなことに和紙を使っているのか、私たちは実は知らないんです。恥ずかしくて聞けません。そこで、丸重製紙さんで製造する和紙の多くは何に使われているのか辻さんに聞いてみました。
辻氏:主力製品のひとつは懐紙として多く出荷しています。
KDM人:懐紙はどういったお店で取り扱いがありますか?
辻氏:ほとんどが茶道具屋さんです。茶道人口の減少とともに売り上げも減り続けています。
KDM人:茶道はなかなかやったことがある人の方が少ないですね。私も敷居が高いなあという印象です。
辻氏:和紙をもっと現代のライフスタイルに合う形の商品にしたい。懐紙というのは定義を見たらわかるように、懐にしまえる小ぶりな和紙であればなんでも良いんです。正方形にしても良いし、折らなくてもいい。A4を小ぶりと言ってしまえA4でも問題ありません、明確なサイズは定義されていませんから。なので、正方形に切ってパッケージを変えて折紙として販売したりしています。同じ懐紙でも「茶道用懐紙」「パーティー用懐紙」など文言を変えるだけで、特にECサイトでは売れるかもしれません。同じ紙でも商品が変わるんです。
KDM人:今は食事をするとペーパーナプキンが必ず置いてあってそれで口元を拭きますけど、自分のカバンから懐紙を取り出して口元を拭くと「雅な人だなあ」って感じますね。新しい習慣が根付くと、新しいプロダクトが生まれていきますよね。
辻氏:現代のライフスタイルに簡単におしゃれに使える提案が、具体的にイメージできればお客様は買うと思うんです。懐紙って言っちゃうとお茶道やらないから・・・って無縁になってしまいます。和紙メーカーだから何でも作れることが売りだと思っていましたけど、プロダクトとしてはそれは難しくて。「何を」を明確にしてお客様にイメージを具体化して見せないと売れないんです。
KDM人:「きっとこれを使うと自分の生活が良くなる」とか「これを使うとこんなに素敵なことが起きる」など、想像力を掻き立てられるプロダクトにお客様は投資する傾向がありますね。
普通に暮らしていると和紙を使おう、とか和紙を買おうという衝動はなかなか湧きません。だけど、和紙でできた照明を見ると、お部屋にあったら素敵だろうな、欲しいな、という衝動が生まれます。そこから購買につながれば、結果的に和紙のプロダクトにお金を払ったことになるんです。
和紙を巡る冒険の結末
ここまで続いてきた和紙について巡る冒険を通してKDM人が分かったこと、それは「和紙の定義を求めていたけれど、和紙に定義はなかった」ということでした。和紙とはそもそも、今でいう"洋紙"が日本に入ってきたときに生まれた相対的な言葉であり、その当時は和紙の"和"は日本という意味で使われていたのでしょう。しかし、現代における和紙の"和"は日本という意味では成り立ちません。
我々KDM人は辻さんのお話や自身の経験を踏まえた上で、和紙とはこういうものなんじゃないかという一つの答えを捻り出しました。
「売り手と買い手双方が和紙だと思ったもの が 和紙 になる」
我々の文房具店では「和紙ありますか」と聞かれると、和柄の紙をご案内します。我々が和紙だと思って販売し、お客様もそれを和紙だと思って購入した「和柄の紙」はその瞬間「和紙」になるんだと思います。ただ、中にはこれじゃないと感じるお客様もいます。その人がこれは和紙じゃないと感じると、和柄の紙はただの和柄の紙になってしまうんです。
かつて和紙と呼ばれていて今現在も本当に和紙だと思われている"和紙"が欲しい人はWashi-naryへぜひ足を運んで欲しいと思います。
本当の和紙を販売するには"和紙を体験する場所"を提供することが必要です。和紙はKDM人が想像していた以上に種類がありました。それら全てを知り、見て触れて、その中から選べることが大切なことであり、とても貴重な体験です。その場所を提供することは、50坪の文房具店ではなかなか実現することが難しく、和柄の紙を販売するのが精一杯です。和紙専門店へ行けば、たくさんの種類の和紙に触れることができます。
和紙に触れることは皆さんが思っているより貴重で大切で、何より楽しい体験です。こんな和紙見たことない、和紙ってこんな使い方あるんだ、そんな和紙の未知なる体験をぜひ皆さんにも楽しんでもらえればいいなと我々KDM人は思っています。