我々がなぜ和紙について調べているか。ざっくり言うと、文具店での素朴の質問から自分たちなりの答えを得るための旅に出たのです。
「和紙をめるぐ冒険/文房具屋として必要なモノゴト」「美濃を訪ねて」「美濃和紙を伝える街」「和紙の定義、とは」
和紙の歴史
過去4回の記事では和紙の歴史を語っていなかったので、メインテーマのための基礎知識として歴史を確認しましょう。
※本当は先人のテキストをたくさん読んだにわか知識を披露したいのですが、今日は道具のお話ですので我慢して超ダイジェスト版です
- 西暦610年頃に海外から伝来
- 生産量の最盛期は明治で1901年(明治34年)の全国製紙戸数は、7万近く
- 1903年には教科書の素材は和紙から洋紙に変更、意向生産量減少
- 2008年には手漉和紙事業者200戸を下回る
全工程が機械化された洋紙の参入、学校教育での鉛筆導入などをきっかけに、機械漉を含む和紙の生産は減少し現在に至ります。
その陰で進行していたのが、道具供給の減少です。
今回は手漉和紙を支える道具をご紹介したいと思います。
和紙は道具まで美しかった
さて、美濃紙ワシナリーさんに飾ってあるオブジェなのですが、これなんでしょう?
こういう向きで使います。名前は簀桁(すけた)といいます。
もちろん近隣のホームセンターや百貨店、文具店では買えない代物です。
そして中央部に載っているものは「簀(す)」といいます。
紙を漉くときには、こうして簀桁のうえに載せて使います。
近くでみるとこういう感じです。
簀は紙漉の心臓部で、産地によって製作方法、材料が若干異なります。
今回取材した本美濃紙を漉くための竹簀は「かぎつけ」「そぎつけ」という特殊な技法を用いて作り上げられます。
継ぎ目が一見しただけでは見えません。細い細い竹の先を斜めに削いでの継いでいるため見えづらいのです。
Q「どこでこのお道具は買えるんですか?」
A「道具を作る職人さんが少なくなってしまって、注文してから、半年か一年ぐらいかかります」
すごく貴重な道具なのです。
この竹簀で漉いた紙には等間隔の簀のあとが入り、これが本美濃紙の特徴の一つです。
和紙職人の澤村先生からいただいた本美濃紙を眺めると、縦向きの糸の目がすべて等間隔です(一般的な簀だと、竹の継ぎ目で縢り糸が2本並ぶ箇所が発生するため等間隔にならない)。
光を透過したときの美しことといったら…。
これも美しい!
叩解と呼ばれる素材を砕く工程で使う木槌です。
他の和紙産地では、棒状の道具で叩解作業を行うそうですが、美濃ではこの菊模様が彫られた木槌が使われています。
複雑な模様をかたどった針金が溶接された木枠。
漉きあがった和紙の上にこの幾何学模様の木枠を置いてシャワーのように水を落とします。
すると…。
落水紙といいます。
なんて優雅な模様。
プロのお道具
DIY、カリグラフィ、ネイルアート、陶芸、手芸、万年筆の調整、蕎麦。本当に様々なものづくりが世の中には存在していて、それぞれの世界プロがいます。
そのプロの道具はとても個性的で、いうなればどれも「キャラ立ち」してる!
特に美濃和紙の道具はビジュアルが美しいものも多く眼福でした。
今後も「プロの道具」という切り口でご紹介できたらと考えています。
参考文献
- 手漉和紙産業における光と影 近創史No.14/2012 小畑登紀夫著
- 和紙原料の流通状況とその諸課題 長尾雅信著
- 本美濃紙保存会