「字がきれいになりたい」と思って、ペン字練習帳を買った。
けれど三日目には、字よりも“書いている時の気分”が気になっていた。
もはやこれは上達ではなく、探求である。
線の太さ、紙の吸い込み、筆記角度──
自分の字を整えようとしていたはずが、気づけば“ペンとの相性”を研究する毎日になっていた。
Ⅰ.きれいな字より、気持ちのいい線
正しい書き方より、気持ちのいい線を探すほうが、性に合っていた。
練習帳を開いても、真っ先に気になるのは紙質。
インクの滲みや筆記音が変わるたび、「今日はこの紙とこのペンが機嫌いい」と独り言が増えていく。
SlideNoteを使い始めて、ノートというものの考え方が変わった。
紙を自分で選べる自由さ。
罫線や質感を替えるたびに、“書く”という行為そのものが別の生き物になる。
紙を替えると、字の性格まで変わる気がした。
これはもう、学びというより実験だ。
Ⅱ.筆記具との邂逅──4つの奇妙な相棒たち
① 研恒社 SlideNote
好きな紙でノートが作れる。
この自由さ、整理上手な人には向かないと思う。
でも私は好き。
書くことを「整える」より「解き放つ」ほうが似合っている気がする。
② セーラー万年筆「ふでdeまんねん」
変な名前、変なペン。クセつよ。
でも、クセになる心地よさがある。
筆圧に合わせて線がうねる、その気まぐれが楽しい。
真面目な人が書いたら破綻するけど、「変さ加減」を楽しめる人には最高のペンだと思う。
③ OHTO 筆ボール
世は細字全盛期。
だが通はインクがたっぷり出る太字が好きだ。
ジェルでも筆でもない“ボールペンの筆感”。
字形なんて崩れても構わない、インクが紙に滲む瞬間に、確かに生きている感じがする。
昔雑誌の取材を受けていた時代、オススメ文具ランキングを出してくれという依頼が来た。その時私達の会社と並列で取材を受けていた世界堂さんが薦めていた商品だ。
さすがだ!!と感銘を受けたのをおぼえている。
業界の新参者で追随者でもある我が社はカンニングで育ってきたのだ。
④ パイロット スーパーグリップ(1.6mm)
ジェットストリームに先駆けた、なめらかインクの元祖。元祖過ぎて誰も知らない(笑)。
みんなが0.38mmを選ぶ横で、私はこの子を握る。
太い線の中には“迷わない気持ち”が宿っている気がする。
書くたびに少しずつ、自分の輪郭が整っていく。
このペン、潔すぎるだろう!
Ⅲ.万人受けしない文具担当
文具担当という仕事をしていると、
「おすすめはどれですか?」とよく聞かれる。
けれど、私は“おすすめ”という言葉が少し苦手だ。
なぜなら、みんなにとっての正解なんて、
たぶん私の好きなものとは違うから。
私が本当に信じられるのは、
「これを書いたとき、気持ちよかった」という一次情報。
そこには計算がない。
だからこそ、人の心を動かす力がある気がする。少なくとも良いと思った人間がここに1人いるんだから。
文房具に限っていうなら、迷った時は気分が良い方を選んで欲しい。
Ⅳ.書くことは、“整うこと”ではなく、“はみ出すこと”
ペン習字をしていたつもりが、いつの間にか“自分の線”を探していた。
字を整えるというより、書くことで“余白”を確かめていたのかもしれない。
うまく書けなくても、心地いい字がある。
実は心地良い字を書くと、ちょっとうまく見える。
終章
美しい字は努力の先にあるけれど、
出典 わたし
心地いい字は、今日からでも見つけられる。
みんなにすすめられる“良いもの”より、自分が心から好きになれる“何か”。
文具店は、そんな「好きの一次情報」が並ぶ場所でありたい。
そして今日も私は、太字のインクを滲ませながら、次の“気持ちいい線”を探している。
相変わらず字は美しくないけど。